第5話
玲の家庭は、両親と姉の4人家族。父・類は仕事の関係で海外を回ることが多く、なかなか自宅で家族団らんという時間を過ごすことが出来ずにいた。そのため、少しでも父として出来ることは無いかと、時間を見つけては遠い国からビデオ通話やメッセージによる連絡を取り家族とのコミュニケーションを続けてきた。
「元気かい?」
「うん、わたしも玲くんも元気でやってるよ。心配しないで」
「そうか…それは良かった。ごめんな、何もかも亜希に任せてしまって」
「大丈夫だよ。お父さんも体には気を付けてね。海外を転々として疲れているだろうから」
「ありがとな。そういえば、玲は?」
すると、程なくして玲がパソコンの前に姿を見せた。
「お父さん!」
そういって画面越しの父親に手を振る玲。なかなか会えないだけに、この時間というのは玲にとっても楽しみとしている瞬間の一つ。もちろん、それは類にとっても美希にとっても同じ。
「お~玲!元気にしてたかい?」
「元気も元気だよ!毎日楽しいんだ!今日もね、友だちと一緒に…」
玲が幼稚園であった出来事を話している間、類は微笑みながら楽しげに聴いていた。
留まることを知らないかのように玲は話を続けていると、亜希が話題の転換点を見定めて話を遮る。
「玲くん、ここから先は次の楽しみに取っておこうね?」
「えっ?どうして?」
「そうすると、またお話するときにワクワク出来るでしょ?」
本当は類が仕事の合間にビデオ通話としており、まだ捌かなければならない仕事が残っていながらも家族のために無理をして時間を割いていることを亜希は知っていた。
確かに亜希としても、この時間がもっと続けば良いとは思っているものの、自分と玲のわがままに付き合わせるのは申し訳ないと思っていた。
ただ、玲に対して力づくで話を遮ってしまえば、せっかくの機会なのに可哀想であるということも分かっていた。
「うん、そうだね!今度、またいっぱい話すね!」
玲は納得した表情で類に話しかけた。
「じゃあ、また今度ね」
「うん、おやすみなさい」
その言葉を最後に、この日のやり取りは終わった。
「お父さん、元気そうで良かったね」
「いつもと同じ、格好良いお父さんだった!」
「じゃあ、わたしたちはお休みの準備を始めようか」
「わかった!」
玲は、洗面台に向かって歩いて行った。
美希は、パソコンを片付け元の場所に戻した。
歯磨きを終え、あとは寝るだけ。それぞれの自室に行く前に、写真立てに向かって一言。
「おやすみ…」
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