第3話
街を見下ろす写真。街と空の曖昧な境目を写す写真。
色々な写真が残るデータを見ながら、「今日の暗さはどれぐらいだったのか…」と玲は一人思う。
地軸や公転などといった天文学的要素によって夏至や冬至があり、日の出日の入や日中の太陽が位置する角度が決まるわけで、空の色合いに人の心など一つとして関与することはない。
ただ、科学が辿り着いた事実をもとに明け方の時間と自分の撮り続けた写真への思いを咀嚼するというのは少々面白味に欠けると玲は考えている。おそらく過去に読んだ小説の影響もあるのだろう。
多くの人が抱く感覚として、色の明るさと気持ちの明るさに密接な繋がりを感じている。明るい色ならば明るい気持ちに、逆に暗い色ならば暗い気持ちに。冠婚葬祭が色と人の心との結び付けを引き合いに出すには良い例だ。
人々か重ねる心の疲労、圧力、苦痛…心や記憶というのは、ポジティブな物事よりもネガティブな物事を強く記憶するため、どうしても自分自身の日常に色を付けるときに暗色を選んでしまいがちになる。そしてそれらの集合体が夜の暗さを表現する。
それでも、この世には幸福の欠片というのが点在することも事実。そういった幸せを感じられた人選び抜いた色というのは、きっと鮮やかで明るくて、人によっては煌びやかで…。
漆黒と呼ぶ程の夜にならないのは、この世界にも人々の笑顔を引き出す場所や時間がどこかにあるからで、そういった意味では昨日という時間を暗く塗った人にも今日という日は少しでも笑える時間が増える希望がある。
「今日は、この一枚にしよう」
玲が一枚に絞る上で、直感という要素がある。何なら直感に最も重きを置いているぐらいであり、あえて写真の選定に理論は意図的に取り入れないようにしている。
色に対する印象、日常への色付け…字に起こすことは出来ても、その根底にあるのは感覚的要素。
直感と言うと、どこか適当で希薄な印象があるが、そもそも直感とは経験が土台にある。意外と侮れず奥が深い。そして、直感とは感覚的に物事を捉えることだ。
この日撮影した写真20枚、いずれも同じような色合いであるが直感で絞った1枚を印刷し始めた。印刷機の動作音が、明け始めた時間経過に一つ二つと重なっていく。
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