第2話
透けるような色で浮かぶ下弦の月は極めて細く、それは鋭さすら感じさせるシルエット。
存在感を残す一等星も、「街に降り注ぐ」と言うには些か光に力を感じなくなった。月や一等星の薄れゆく存在感は、毎秒事に街の目覚めが近づくことを言葉を介さずに示していた。
そんな変化を、ベランダの椅子にもたれながら玲は一人眺めている。
「もうじき夜明けか」
東の空がマジックアワーの準備を始めているのを見ながら、玲は小さく呟く。
一日中雨をもたらした厚い雲も遠いどこかへ流れ、玲の頭上を覆っているのは宇宙の藍色。雲一つない空とは言ったもので、玲が見上げた空は見渡す限り雲の欠片すら見当たらない。
日中は暖かな春の陽気に包まれるものの、朝晩の冷え込みは名残惜しい。夏の到来は、もう少し先のようで…。
上着越しから感じる7℃の風が玲を包み込む。そんな肌寒さから避けるように、玲は自室に戻る。
部屋に戻ったとしても登校前の準備には早すぎる時間。夜闇を遮るカーテンの向こう側からは、鳥のさえずりが聞こえてくる。
何かをするには暗く、部屋のライトが欲しい明るさ。ただ、玲はライトを付けることなくベッドに横たわりながら、先ほどまで撮っていた写真を見始めた。
_____日常とは人それぞれの色付けによって完成するもので、その出来映えというのは人によって千差万別。同じ時間を辿る人など二人いることなどあり得ず、必ず出来映えには違いが生まれる_____
玲が小学生の頃に読んでいた小説の一節。
絵の具の色を適当に混ぜ合わせると、黒とも違う色が出来上がる。混ぜ合わせる色の種類や数が多くなるほどに、鮮やかとは対極な色合いへと変化していく。
玲が小学生の頃に自由研究で書いた文章に、こんなことが綴られていた。
「時を追うように空は暗さを増していくけど、それは時間に対して人々が思い思いの色を塗り合わせているから。夜へ続く色合いの変化は、人々の日常が続いていたこと、人の息吹の連続を感じるんだ。今日を生きてきたんだって、今日も繋げられたんだって」
全く科学的な結論ではなく、いかにも小説的で比喩を抽出した考えではあるが、玲はこういった世界観が好きだった。
そして玲は、そんな世界観を胸に抱きながら毎朝カメラを抱えている。
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