ドロップ
むーるとん
第1話
明け方というには薄暗さも残る午前3時。人々の聞こえない寝息は街の眠りを語る。
家の鍵を掛ける音ですら響き渡るような静寂。そんなこの街にも、ほんの数時間前までは数え切れない音の交錯があった。
音を閉じ、色を落とす。止まること無く走り続けた街にもたらされる、束の間の休息。
一眼レフのカメラを片手に、ベランダから街の休息を撮り始める一人の少年。星井玲という中学生は、そんな街を一望できる場所に住んでいる。
滲んだような藍色。よく目を凝らせば光が見えるが、それらは信号機の光や街灯の灯りだろうか。
玲は天気も平日も関係なく、決まって深夜から明け方に時を移す午前3時に目を覚まして一見同じような光景を写真に収め続けてきた。
とはいえ、夏至に近づけば同じ時間帯の写真でも橙色が少しずつ混じっていくわけで、その光景にも変化がある。逆もまたしかりで、冬至に近づけば藍色の存在感が日を追うごとに増していく。
そんな変化が、玲の楽しみなのだろうか。
一つ、また一つ。玲が向けたレンズに写る見下ろした街から空の色まで、データとしてカメラに保存されていく。1時間かけて、およそ20枚ほど撮ったところで椅子にもたれて、撮った写真を確認する。
玲は、全て保存するといったことはせず自身の直感で「これだ」と思う一枚を選び抜き他の写真は全て削除する。そして、その写真を2枚印刷して1枚を保存するところまでが玲のルーティン。
小学生の頃から始めた夜明けのルーティン。当初は起きれない日もあり毎日とはいかなかったものの、程なくして3時前に目を覚ますことが出来るように。以降は、一日も欠かしたことはない。
気づけば、印刷した写真も1000枚以上に達していた。
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