第2話 タフさと狙われる理由

 休憩時間になり、土木作業員のみんなが休憩小屋に集まった。

「おい。ルーキーを病院に運ばなくて良いのかよ。さっきオシリペンペに翼で殴られていただろ」

 土木作業員の一人が言った。

「大丈夫そうなんでな。様子を見ている」

 現場監督が言った。

「そんなはずないだろ。俺達警備係でも奴の翼の直撃を喰らったら病院送りだぞ」

 土木作業員達が驚く。

「なんでもあのリング城病院のサクラのパンチを喰らっても、すぐに立ち上がる耐久力を持っているらしいからな」

 現場監督が言った。

「それはすごいですね。サクラさんのパンチをまともに喰らったら、モンスターでもダウンしてしまうと言うのに」

 ヒスイが言った。

「サクラのパンチってすごいと聞いていたけど、そんなに凄いのか?」

 土木作業員の一人が言った。

「パンチの威力は、私と同じぐらいです。彼女の凄いのは、ただ単に威力があるだけじゃなく、タイミングと正確さが常人には到底マネできないレベルなのよ」

 ヒスイが説明口調で言った。

 土木作業員達が首を傾げる。ヒスイの言った事が彼らには難しすぎたのだ。

「上手く相手の隙を狙いながら、敵の急所に正確にパンチを決めるのよ」

 ヒスイが追加説明すると、意味もわからず「おう」と納得したような声を上げる。

「例えば、この前サクラさんがオシリペンペと戦った時、パンチ二発で倒したのよ」

「ど、どうやってだ」

 土木作業員達が驚く。

「彼女のパンチはコークスクリューパンチと言うパンチを使うの。そのパンチは、敵に命中させる寸前に回転を加えて威力を増す特殊なパンチなの」

「回転させるとなんで威力が強くなるんだ」

「あら、土木作業員がわからないのは問題よ。棒を普通に突き刺すのと、ドリルを付けて回転させて突き刺すのとどっちが貫通力ある?」

 土木作業員全員が納得する。ヒスイの説明はわかりやすい。

「そのコークスクリューパンチをオシリペンペの心臓に命中させて、固い皮膚を捻じると同時に動きを止めたの。そして二発目を同じ場所に当てて昏倒させたのよ」

「オシリペンペの心臓ってどこにあるんだ?」

 現場監督が聞く。

「胸骨の辺りよ。私でもカウンターでピンポイントで心臓を狙うなんて芸当は難しいわ」

 ヒスイは素直に認める。

「う、うーん」

 エリザベスが腹を擦りながら起きる。

「あれ、なんで俺こんな所で寝ていたんだ」

「違うよ。モンスターにやられて倒れたんだ」

「そ、そうだ。あの巨大ペンギンにやられたんだ」

 現場監督が状況説明をした。もちろん、ヒスイが剣で巨大ペンギンを倒したことも。

「しっかし、なぜあの巨大ペンギン、『オシリペンペ』なんて名前なんだ」

 エリザベスが聞く。

「一応、銀河帝国の害獣リストにそう書かれていたからだそうだぞ」

 現場監督が答えた。

「変な名前だ」

 まったくだ。

「いやー。噂に違わず、お前タフだな」

 現場監督が感心して言った。

「そうか?」

 エリザベスは疑問に思った。

「そうよ。オシリペンペの翼で打つ攻撃を受けたら、普通のエルフは病院行きよ。数時間の気絶だけで済むなんて凄わ。自慢していいよ」

「でも、俺モンスターにやられているだけで、全然役に立ててないけどな」

「そうでもない。お前のお陰で他の土木作業員が逃げる時間を稼げている。こんなにモンスターが現れているのに、被害が少ないのはお前のお陰だ」

 現場監督が言った。

「もしかして、俺って囮に使われてないか!」

「そんなことはない。と言うより、意図的に誰かを狙わせるなんてできない。奴らの習性もあまりわかっていないのでな」

「でも、なんて俺ばかり狙われるんだよ」

「私の仮説で良ければ、説明できなくもないけど」

 ヒスイが話に加わる。

「仮説?」

 ヒスイが仮説を説明し始める。

「野生の肉食動物が、獲物の草食動物の群れからターゲットを決める方法って知っている?」

 一同は首を横に振る。

「まずは子供、次は老人。つまり、動きがぎこちなくて、弱そうな個体が狙われるの」

「それって、俺が弱そうってことか!」

「そう言うわけじゃないけど、他の土木作業員の動きと違うから狙われやすいんじゃないかしら」

「う。俺が動きが悪いから狙われるのかよ」

「その可能性が高いって事ね。仕事に慣れてくればなんとかなるわ」

「ならいいけどな」

 エリザベスは憮然として言った。

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