第6話 武闘派集団
「でも、なぜあの女は近眼なんだ」
エリザベスが聞いた。近眼にならないはずのエルフが近眼になったのだから、当たり前の疑問である。
「近眼になったきっかけはわかっているが、近眼の原因はわからないままだ」
シェレンが言った。
「言っている意味がわからなかったのだが」
「交通事故にあって死にかけた事があった。その時、命は助かったが、失明してしまったのだ」
エリザベスは首を傾げる。
「エルフって失明することってあるのか?」
「失明しない訳じゃない。ただ、普通は時間が経てば治るだけだ」
「じゃあ、奴はどうして治らないんだ?」
「いや。失明は治ったから。ただ視力が回復しないだけだ」
「そっか」
「お前と話していると疲れるな」
シェレンはうんざりして言った。
「ああ、良く言われるぜ」
エリザベスは自慢げに言った。
「自慢するな」
シェレンはツッコミを入れる。
「でもどうして近眼を治そうとしないんだ」
エリザベスが聞く。
「治そうと必死だから、アルフヘイムに移住して、看護士の資格まで取って、治療費を稼ぐと同時に、治療法の研究までしているんじゃないか」
「看護士になったのは、エッチな白衣を着たかったからじゃないのか!」
「サクラの前で言ったら殺されるぞ。それにこの病院の白衣はエッチじゃないだろ」
シェレンが軽蔑の眼差しでエリザベスを睨む。
ちなみにシェレンの白衣もサクラの白衣と色もデザインも同じ白衣だ。
「それとも私の白衣もエッチだと言いたいのか」
シェレンの言葉にエリザベスは冷汗をかく。
突然診察室の扉にノックがあり、扉が開く。
「ただいま戻りました。あ、珍獣起きた」
サクラだ。
「珍獣いうなあ」
「一応、カモシカ建設の広報に問い合わせたところ、新入社員の年収は四百七十万エルフ円ぐらいだそうです」
サクラはエリザベスを無視してシェレンに報告した。
「げ、どうしてそんなことお前が調べているんだよ」
エリザベスが焦る。
「私がサクラに頼んで調べてもらったんだ。サクラは何をやらせても迅速にこなすからな」
「ちなみに二年目以降はランクによって、年収が大きく変わるみたいです。ランクが低い人で、五百四十万エルフ円。ランクが高い人だと一千万エルフ円以上になるとか」
サクラは事務的に言う。
「ランクが高いと私の年収を楽に越すことになりますね」
サクラがそう付け足した。
「よし、俺のランクを上げてこいつの年収を超えてやる~」
「必殺かかと落とし」
サクラのかかとがエリザベスの脳天を見事にヒットする。エリザベスは再び昏倒した。
「サクラ。お前は少し手加減を覚えたほうが良いぞ」
シェレンが言った。
「十分手加減はしました」
シェレンはエリザベスを座らせると背後に回る。そして喝を入れて起こす。
「お、俺はどうなったんだ」
「お前は、サクラを挑発するな。どうせ勝てないんだから」
「どうして勝てないって決めつけるんだよ」
「サクラは私と互角の強さを持っている格闘の天才だ。お前に勝てる要素は全くない」
「先生と互角だとなぜ強いんだよ!」
「私は武芸百般に加え、魔術を使えるが、それに何か疑問でもあるのか?」
エルフには稀に武道を極めている者がいる。エルフはちょっとのケガならすぐに回復するし、長生きだから、武芸を極めるのに適している。その上、魔術まで使える者は、間違いなく強いと相場が決まっていた。
ちなみにシェレンは見かけは十六歳程度の美少女だが、実際には、六十歳である。
エルフには肉体限界年齢と言うものがある。
それは特に事故にあったり、病気にかかったりせずに天寿を全うした場合、その肉体で生きられる寿命の事である。ノーマルの地球人は生まれつき決まっており、それが伸びることはない。しかし、エルフは遺伝子変化に伴い寿命が延びる方向に変化する。その上、生まれつき寿命が長いエルフも居るので、見かけで実際の年齢を言い当てるのは難しい。
また、実年齢が年上でも、肉体限界年齢が高いと成長・老化が遅くなり、肉体は若いこともあるので、実年齢も当てにならないのだ。
そして、シェレンは生まれつき肉体限界年齢が高かったのだ。
「なんで病院の職員がそんな武闘派集団なんだよ」
エリザベスが言った。
「ただの偶然だ」
シェレンとサクラの二人が同時に言った。
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