第5話 サクラの不治の病

 一時間ほどしたらエリザベスが目覚めた。

「ここはどこだ」

「診察室だ」

 シェレンが答えた。

 エリザベスは診察室の隅に置いてあるベッドの上にいた。エリザベスはキョロキョロ周りを見て確認する。

「もう、健康診断も済んだ。結果は明後日中にでるだろう」

 シェレンが言った。

 アルフヘイムの健康診断は機械で全自動なので、眠っていてもできる。

「明後日は仕事があるから、取りにこれないぞ」

「夜七時までやっているが、それでも来れないか?」

「そんな時間までやっているのか?」

「そうだ。この国の条例で決まっている事だ」

 シェレンは面白くなさそうに説明する。

「それなら、現場がここに近ければ間に合うと思う」

「その現場は近いのか?」

「当日にならないとわからん」

 エリザベスの答えにシェレンは考え込む。

「それじゃあ、取りに来れる日がわかったら電話くれ。それと一ヶ月以内に取りに来ること。いいな」

「休日でも良いのか?」

 エリザベスが言うと、シェレンは明らかにイラッとした表情になる。

「可能な限り平日にしてくれ」

 シェレンがプレッシャーを掛けながら言う。

「わ、わかった」

 タジタジになりながら言った。

「ところでシェレン先生。サクラの不治の病って何なんだ」

 エリザベスが疑問をぶつけた。

「マジで気付いていないのか?」

 シェレンが不思議そうに尋ねる。

「わからんから聞いているんだろうが」

「サクラの顔を見れば、すぐわかると思うが」

「性悪そうな顔つきをしている事しか思いつかないが」

 エリザベスが言った。

「本人が聞いていたらただじゃ済まないぞ」

「本人がいないから言っているんだ」

「卑怯な奴だな」

「そんな事より、不治の病って何なんだ!」

「サクラと言ったらメガネだろう」

「ふん。可愛く見せようと伊達メガネを掛けているに決まっている。あの腹黒女の考えそうなことだ」

「あのメガネは伊達じゃないよ。ちゃんと度が入っている。それとメガネを掛けていないと殆ど見えないほどの近眼だ」

「へえ」

「へえ。じゃない。近眼が不治の病だ」

「えー」

 エリザベスは激しく驚く。

 エルフは環境に適応する特徴があるせいか、近眼にならない特徴がある。だから、エルフはメガネをまず使わない。そしてエルフしかいないアルフヘイムではメガネ自体がレアアイテムである。

 そのメガネを掛けているサクラは、アルフヘイムではかなり有名人であった。

「地球じゃあ、メガネかけているのは珍しくないから、気にならなかった」

「地球でもエルフはメガネを掛けないだろ」

 シェレンは怪訝な顔をする。

「そんな事はない。確かに近眼のエルフはいないが、伊達メガネを掛ける奴ならいるぞ」

「ほう。そんなもんか」

 エリザベスは、都市エルフなので、一般的な里エルフは知らない。伊達メガネをかけるエルフは、都市エルフの一部だけである。一般的な里エルフは伊達メガネをかけないのだが、エリザベスが知る由もなかった。

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