第4話 高額な治療費
「これがお前の治療プランだ。お前が予約をした時から作り始めたものだ」
「俺の為にここまでしてくれるとは」
エリザベスは心底感動している。
シェレンが、先ほど口頭で説明したことが詳しくなっている内容だ。
「そこでだ。現状の健康状態を調べる為の検査をしたい。もちろん今日できるし、後日でも構わないがどうする?」
シェレンが聞く。
「健康検査と遺伝子検査は、間が空くと良くないとかあるか?」
「そこは間が空いてもさほど問題ない。遺伝子検査から遺伝子操作を行うまでの期間が長くなると良くないな」
「なぜだ」
「エルフは遺伝子が変わる場合があるからだ。大きく変わってしまったら検査からやり直しになる」
エルフとノーマル地球人との最大の違いがこれだ。強力な自然治癒力を発動させたり、環境適応の変異をすると遺伝子が書き変わるのだ。そして強靭な体へと進化する。
「それなら、健康診断はすぐしたい」
エリザベスは答えた。
「でも、遺伝子検査は、まだ先になるのに良いの?」
サクラが言った。
「どうして先になるんだよ」
エリザベスが聞く。
「研修期間中は、有給休暇は十日間しか取れないはずだ」
サクラが言った
「な、なんだと」
エリザベスが驚く。
「何を驚いてんだ。一般常識だぞ。普通の企業に勤めていればな」
サクラは呆れ顔で言う。
「それに費用の事全然考えていないだろ。ちゃんと費用の見積もりを読め」
サクラはここまで言うと溜め息を吐く。
「この国の健康保険に加入したら治療費が無料になるんじゃなかったのか!」
「保険内医療ならな。今回の治療は保険外医療だ。保険外医療は一割負担だ。地球の十割負担に比べるとかなり親切だろ」
サクラの言葉にエリザベスは絶句する。そして、資料を見直し、費用の項目を見つける。
「げ、なんだこの金額は!」
エリザベスが驚くのも仕方がない。概算であるが、総額九百万エルフ円もするのだ。
「お、俺こんなに金持っていないぞ」
エリザベスは事の重大さに初めて気が付く。
「この金額なら止めるか?」
シェレンが聞く。
「やめるもんか!」
エリザベスは即答する。
「だが、ツケとか、分割とかは受け付けられない。一括術後払いだ」
シェレンの言葉にエリザベスは絶望する。
「お、俺はどうすれば良いんだあ」
エリザベスは叫びながら、頭を掻き毟る。
「お前の取るべき道は三つ。ただし、一つは多分NGだから、二つと言うべきだな」
サクラが言った。
「その二つの道は、何なんだよ」
エリザベスが詰め寄る。
「一つは借金して、治療費を準備する。もう一つは働いて治療費を稼ぐ」
「そんな当り前の事を聞きたくないわ」
「どうしたら良いのか悩んでいるから教えてやったんだろうが」
サクラがやや怒りながら言った。
「聞くだけ無駄だと思うがもう一つの道はなんだ」
エリザベスが聞く。
「時間の無駄だと思うのなら聞くな。私自身も無駄だと思ったから言わなかったのだから」
「一応言ってみろ」
「諦める」
「諦められるか」
「だから言わなかったのに、無理に聞いたのは貴様だろう」
サクラの剣幕にエリザベスは怯える。
「不治の病の治療に金がかかる事を一番理解しているのはサクラだからな」
シェレンが口を挟む。
「お前も性転換手術しようとしているのか」
「誰がするか」
サクラのコークスクリューブローがエリザベスの顎にヒットする。いや正確には顎先を掠った。
「へ、へん。効くもんかそんなパンチ」
「サクラ。それはやり過ぎだぞ」
「これ以外の方法で殴ったら、診察室に被害が出ますから」
サクラは腕組みしながら言った。
「あれ、目の前が、急に歪み。あれ、天井がグニャリと歪んで……」
そう言うとエリザベスは昏倒した。
サクラのパンチは、顎先を掠めることにより、テコの原理で頭蓋骨に振動を伝え、脳にダメージを与える攻撃だ。ここまで完璧にヒットされたら丈夫なエルフと言えど、エリザベスのように倒れることになる。
「あちゃー。これは一時間は目覚めないな」
「私を変態扱いした報いだ」
「エルフでは珍しいのは確かだが、性同一性障害は、病の一種で変態ではないぞ」
シェレンがたしなめる。
「す、すみません」
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