第4話 カモシカ建設

職員は、コンピュータにエリザベスの学歴、職歴を入力し、求人情報を検索する。

「あなたに合った職業は、土木作業員です」

 職員はコンピュータ端末を見て言った。

「や、やっぱりそう来たか」

 エリザベスは叫びながら言った。

「やっぱりって期待していたんですか」

「するかボケ!」

「土木作業員ならあらゆる種類で採用可能と出ていますよ」

 職員は楽しそうに言った。

「なにがそんなにうれしいんだ」

 エリザベスが言った。

「土木作業員の中でも安全地域で軽作業しかできない人から、危険地域でモンスター退治をしながら作業ができる人までランクがあるんですよ」

「なんだって!」

「もちろんランクが高い方が危険でハードですが、給料がいいですよ」

「家が欲しいだけだから、ランクは低くても良いよ」

「まあ、そう言わず」

「病気が治ったら、さっさと地球に帰るんだからよ」

「何の病気なんだい? 病歴に書いてないけど」

「仕事には関係ねーよ」

「仕事に関係ないなら書きなよ。ツッコミ入るよ」

「嫌だ」

 エリザベスは頑なに拒む。

「全く。そんなんじゃ就職に不利だよ。サクラさんから紹介状もらってないの?」

 エリザベスは職員に紹介状を渡す。

「サクラさんじゃなくて、シェレンさんが書いてくれているようだね」

「あの病院の医院長はシェレンだろ。シェレンが紹介状書くのが普通だろう」

「そうだけどね。こういうことは、サクラさんが代筆することが多いんだよ」

「あいつそんなに偉いのか?」

「まあ、この国で唯一の看護士だからね」

「看護士が一人で大丈夫なのかよ。この国は」

「この国はエルフしか住んでいないからね。だから、病院が殆どいらないんだよ」

 エルフはノーマル地球人がかかる病気に耐性があり掛らない。エルフ特有の病気に掛ることがあるが、それは滅多にない。

「事故とかはどうするんだ」

「この国の保健所には、簡易治療施設があって、そこで殆どのケガは治せるから事故でも病院は必要ないんだよ」

「エルフだって病気になることがあるだろ」

「それでリング城に病院があるんだよ」

「なるほど」

「その為に、唯一の医者のシェレンさんと唯一の看護士のサクラさんが必要なんで、皆一目置いているんですよ」

「なるほど。必要悪と言うわけなんだな」

 エリザベスは意味不明な納得をする。

「いや悪じゃないから」

「悪だろう」

「サクラさんに告げ口しますがよろしいか?」

「すみません」

 エリザベスは土下座する。

「あと、履歴書には本名書くように。ナカムラ・ケンジさん」

「ナカムラ・ケンジ言うなあ。だいたいどこでその名を知った」

「紹介状の中に、サクラさんの手紙が入っていて書いてあったから、それとあなたの病気のことも書いてありましたよ。それを面接の時に面接官に渡してくださいね」


 エリザベスは、職業案内所の職員に紹介された土建業者、カモシカ建設にやって来た。

 職安に来たその日に仕事が紹介され、その日に会社に来るとはエリザベスも思っていなかったので驚きの展開だ。

 面接会場には面接官が一人待っていた。

「ナカムラさんじゃなくてエリザベスさん」

 エリザベスは涙を流す。

「どうかしたんですか?」

「いえ、ちょっと感動を」

「えーと、職安の資料によると、かなりランクの高い職種も選べますよ。本当に最下級ランクで良いんですか?」

 面接官が尋ねる。

「ああ、それで良い」

「なんにせよ。土木作業員としての経験はないので、三十日は試用期間、さらに三百三十日は、研修期間になりますがよろしいですか?」

「住む所を提供してくれるなら構わないぞ」

「それはもちろん。今日から提供しますよ。試用期間中に首になるか、あなたが依願退職をするか、定年退職するまで」

「凄い気前が良いな」

 エリザベスは驚く。

「この国の政策で、人が住んでいない住宅には、未住住宅税がかかるからね」

「酷い税金だな」

 エリザベスは何となく言った。

「そうでもないですよ」

「なんでだ」

「広く人々に住宅が行き渡るようにする為の施策だよ」

「どうして住宅が行きわたるんだ?」

「その税金のお陰で、金持ちに住宅が独占できないようになっているんだ。手軽に住宅を持つ事が出来るから、欲しがる人が多い。欲しがる人が多いから家を作る。家を作るから会社が儲かる」

 面接官が得意げに説明する。

「なるほど~」

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