第3話 職業案内所職員
「このバカに仕事を紹介してやって欲しい」
そう言うと、サクラは愛想もなく立ち去る。
「相変わらず無愛想だなあ」
男の職業案内所職員が苦笑する。
「あの女と知り合いなのか?」
エリザベスが苦笑した職員に聞く。
「以前ある会社を紹介したことがあったんだ。だけど、面接でセクハラを受けて、面接官を一発で仕留める事件があってね。もはや伝説になっているよ」
「あの殺人パンチで殴ったのか?」
「ええ。それを聞いた騎士団が、スカウトに来たほどの威力だったらしいよ」
エリザベスは首を傾げる。
「騎士団がスカウトに来るほどの威力ってどの位だとスカウトされるんだ?」
「直接見てはいませんので本当かはわかりません。でも、エルフを全治三日間にする威力があるそうですよ」
「俺は一応数分で立ち直っているって事は、その面接官より、俺の方が強いってことだな」
エリザベスは、ちょっとずれていた。
「サクラさんが手加減しているってことだと思うけどなあ」
職員が言った。
「うるせえ」
エリザベスは職員を殴ろうとする。
「痛てえ」
殴ったのはエリザベスだが、ダメージを負ったのはエリザベスだった。なぜなら、トゲトゲのスパイクが付いた盾でエリザベスのパンチを受けたからだ。それより、トゲトゲスパイク付きの盾を持っていること自体謎。
「貴様、なにしやがる」
「自分の身を守る為に、盾で防御しただけですよ」
「それじゃあ、そのトゲトゲはなんだー」
「トゲトゲは盾のアクセサリーです」
「それは明らかに攻撃用だろうがー」
しかし、職安職員は無視して所定の席に戻る。
「はい。次の方~」
エリザベス以外に窓口に用事のある人はいなかった。
「仕事を紹介して欲しい」
「ここには、そう言う方しか来ませんよ。間違ってもエロ本を買いに来る人はいません」
職業案内所だから当たり前だ。
となりの窓口にサングラスした大男がやってくる。
「とびっきりスケベなエロ本を売ってくれ」
大男が言った。
となりの窓口を受け持っていた女性職員が拳銃を構える。
パンッ!
男は「うわあっ」と悲鳴を上げ倒れた。
「間違ってエロ本を買いにくる奴はいるようだな」
エリザベスのツッコミもズレている。
「そのようですね。でもご心配なく。あの拳銃の弾はゴム弾なので、少し痣ができるだけで死んだりしませんから」
「なんでここは武装している奴ばかりなんだ」
「希望する職業に就職できる人が少ないので、逆恨みされるからですよ」
「どうして希望する職に就けないんだ」
「そりゃ、産業に偏りがあるからですよ。この国では土木作用員を志望する人以外はほとんど希望通りになりません」
「なぜ土木作業員だけなんだ」
「土建業が活発で、人手が不足しているからですよ」
いたって当たり前の答えだ。
「ちなみに土木作業員の給料は良いですよ」
「そんな事はどうでもいい。俺はダンサーになりたい。良い店を紹介してくれ」
地球でのエリザベスは、ショーパブでおかまダンサーをしていた。
「無理だから諦めろ」
職員が即答する。
「ふざけるなー」
エリザベスが職員に殴りかかる。しかし、「イテッ」と叫んだのはエリザベスだった。
「チクショウ。その盾をよこせ」
「断ります」
自分の身を守る武器を渡す者などいるはずはない。
「じゃあ、聞かせてもらおうか。なぜ、俺がダンサーになれないのか」
「それでは履歴書をみせください」
エリザベスは見せる。
「どうだ。ショーパブで九年間踊り続けた実績を見ろ」
「ショーパブでの踊りなんて実績になりませんね。それになんです? この学歴は」
「学歴が何だと言うんだ」
ノーマルの学歴で言うところの商業高校卒程度の学歴である。
「アルフヘイムでダンサーをやるには、芸術大学の演劇科の修士課程か、体育大学の修士課程を卒業している必要があります。書類選考で弾かれます。以上これについて議論終わり」
「酷いぞ。そこにある苦情箱にお前の悪口書きまくってやる」
「酷いとは聞き捨なりません。ダンサーはね。第一次選考の書類審査。第二次選考の水着審査。第三次選考の学力審査」
「ちょっ、ちょっと待て。なんで、学力審査なんてあるんだ」
「この国のダンサーは高学歴でないとなれない理由の一つですよ。それにダンスの歴史や文化や表現力を学ぶには博学じゃなきゃ無理でしょ」
「うっ」
「第四次選考の論文。これらを突破して初めて第五次選考の実技テストに辿りつけるんです。あなたには、一次選考すら無理ですよ」
エリザベスは敗北感に支配され、ショックのあまり膝をつく。
「お、俺はどうしたら良いんだ~」
「そうですねえ」
職員は至って冷静だ。そしてコンピュータにエリザベスの学歴、職歴を入力し、求人情報を検索する。
「あなたに合った職業は、土木作業員です」
職員はコンピュータ端末を見て言った。
「や、やっぱりそう来たか」
「やっぱりって期待していたんですか」
「するかボケ!」
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