第4話 治療方法

 さっきまでバカやっていたサクラだが、マジメに向き直る。

「ところで、性同一性障害ってどうやって治すんですか?」

 サクラは怪訝な表情で尋ねた。

 シェレンはサクラの質問を計りかねる。

「それは、ノーマルの治療法? それとも、あの不気味な物体の治療法?」

 シェレンまで不気味な物体と呼び始めた。

「聞きたいのは後者ですが、前者も知っておきたいです。全く知識ありませんから」

「では、ノーマルの治療法についてさきに説明しよう。胸にシリコンを埋め込んだり、体の別の部位から採取した脂肪を胸に定着するように手を加えてから注入して乳房を形成する。あと男性器を切除して、女性器を形成する」

「つまり、体のパーツを切ったり、埋め込んだり、取り換えたりするって事ですか?」

「簡単に言うとそう言うことだ」

「でも女性器ってどうやって調達するんですか?」

「それはエルフの我々は知る必要はない」

 シェレンはさらりとかわす。

「それに、その治療は、見かけしか女性にならないですよね」

「そうだな」

「でも、ノーマルの治療法がエルフに通用しないわけがわかりました」

 サクラは納得する。

 エルフの体は体内に異物が入ると体の外に吐き出す機能や体の部位を欠損しても再生する機能がある。胸にシリコンを入れると胸の皮膚を突き破って体外に押し出され、やがて傷口はふさがる。また陰茎や睾丸を切り取っても、時間が経つと再生してしまうのだ。

 つまり、ノーマルの性転換手術は、エルフにとっては全く意味がなかった。

「それじゃあ、あの不気味な物体の治療法は?」

 サクラは聞いた。

「俺にも聞かせてくれ~」

 病院の外まで飛ばされたはずのエリザベスが戻って来て聞いた。

「ちっ」

 サクラは舌打ちした。

 シェレンは溜め息を吐く。

「治療その物は、ノーマルより簡単だ。遺伝子レベルの治療になる。性染色体を知っているな」

 医療にたずさわっている、サクラは当然知っている。しかし、エリザベスは良くわかっていない。

「簡単に言うと性別を決定する遺伝子がある」

「それがどうかしたのか」

 エリザベスはわかっているのか、わからないのか曖昧な受け答えをした。

「男の遺伝子を女の遺伝子に書きかえる。そうすると自然と女になっていくはずだ」

「なるほど」

 エリザベスはわかったふりをしている。

「そんなこと本当にできるのですか?」

 サクラが驚き尋ねる。

「エルフの体の特性等を鑑みると、それで上手くいきそうだと言う仮説だ」

 シェレンの説明にサクラは、左手の平に右手拳で叩き、何かを悟った。

「つまりその仮説を実証する為に、不気味な物体で実験をするわけですね」

 サクラは目を輝かせて言った。

「人聞きの悪いことを言うな。れっきとした臨床医療だ。それに本人の承諾なしにやらん」

 サクラの表情が少し曇る。

「医学の進歩の為に、多少の犠牲は必要じゃないんですか?」

 サクラは犠牲を産む気満々である。

「犠牲なんかでない」

「ちっ」

 サクラは舌打ちする。

「そこは舌打ちする所か!」

 エリザベスが舌打ちにツッコミを入れる。

「とにかく、それで治療を頼む」

 エリザベスが言った。

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