第二話 ルテラさんのどきどき日記
私はルテラ、この家の専属メイドとして働いている。厳密にいうと、メイドの見習いなのですが。
ツタ地方からこのマールツェル地方にやってきた。ツタ地方は遠~い遠~い場所で、アルメラス王国とは大違い文化に触れました。っといっても、あまりこの家から離れたことはないので、何とも言えません。
この家の雇い主のソラーティア家には深い恩があり、ここで良く住まわせてもらってます。
まず朝が起きれば、家の掃除をやったり、料理の支度をしたりとやるのですが、それがテンポ良く終わると自由時間になります。
普通の人なら外を出て、お買い物をして、自分がリラックスできる場所を探すことでしょう。でも、この家にいるだけで、イベントが良く起こるのです。
それ以外の時間ではゼアドール様にも色々厳しく教わっております…
多分教師としての癖なのか、元々私が剣の知識があるのかは知りませんが、本当にきつく当たってきます…
でも自分がこの家にくつろげるためなら…くつろげるならと日々頑張っています。
そんなゼアドール様ですが、色々と面白い所があって、彼も周りでもイベントが良く起こりますよ。
気になります?じゃあそのその出来事について少し。
ある日、セイレン坊ちゃまが生まれて間もない頃、こんなことが起きました。
「セイレンお坊ちゃま。これが知りたいのですか?そうですか…これはですね…」
それはゼアドールさんが何か月生まれた赤ん坊にこの国の歴史を喋っていることでした。
彼が赤ん坊に教えることが簡単なお話でもなんでもなく、この国の歴史を平然と話しているところに不思議を感じます。しかも、前国王の名前の歴史まで教えたりしていたのです…私でもそんなことを知らないのに。
それだけじゃなくて、セイレン様もそれを聞いて頷く!
さては精神年齢はおっさ…いや、オタナだな…はは?
で次、テルト様がある日の休日家の中を歩き回っている所でした。きっと何か仕事で悩んでいると思い聞いてみた所…
「今日は誰と会おうか、いや、今日はセネアと一緒にデートでもしようか…でもセイレンも心配だな。嫌困ったことだ。そもそも何で休日があるんだ?休日があることで仕事に活かせることがあるのだろうか?きっとそうだ。でも、こう考えたらおかしいではないか…?」
思っていたよりも単純な悩みを深く考えていた…貴族も色々と大変なのですね…
テルト様の深読みっぷりは彼の周りの人なら知られていることです。こんなにも当たり前なことを考えれることがある意味、頭が良いというべきでしょうか?
貴族は全員馬鹿だと勘違いしていたけど、そうではない。そこがギャップ過ぎるんだ。
やはり私のやるべきことは皆と同じことをするのではなく、この家にいる人たちのように変わっている人生を送らなきゃと思って、出ずにはいられない。
前までは冒険者となって、誰にも認められるような強き者に憧れた。ある時は昔のおとぎ話のように強くなれると、でもこの人たちはある意味その憧れを超えている。だってそうでしょう?変人ばかりなんだもん!
でも、案外そういう意味で言うと、セネア様は…ああなんでもないです。
じゃあ、私はどうかって、変わっているとは言われるかもしれないけど、そりゃ違う国の出身だしね、だから個性なのよ。分からない?だからド素人なの。
で気を取り直して次のお話、少しだけ時は流れるけどセイレン坊ちゃまの大人びている…
時が少し経ち、セイレン坊ちゃまは喋れるようになって、より可愛くなったのがこちらとしてもほっとします。だけど、失礼ながらやっぱり抜けている…
「ん~」
とセイレン坊ちゃまが考え込んでいる。そしてメイドの教えを守って、しっかり者のように主人に寄り添う。
「どうしたのですか、セイレン様?」
「これって何て書いているんですか?」
「ああこれはですね…うん?」
彼が手にしたのは神話を語っている本だった…ほらおかしいでしょ?
どんな子どもが外で虫取りではなく神話をうっかり開いてしまうというの?
この人やっぱり人生2回目言っているのかしら…
でも私はメイド、ご主人様のために頑張るのです。
「あ、これはですね…ある3人の神々たちが、世界を守るために3つ川を創り、一人ずつがそれを見守ると約束しました。しかし、川を守るうちに、災害などが起こり、
やがて、その3つの川は神々によって、創り変えられ、より偉大な力となって、この世界に眠っていると書かれております」
「へぇ、なるほど!ありがとうルテラさん!」
まあ、なんて轟轟しい眼差し!私が同い年でしたら心を惹かれること間違いないセイレン坊ちゃま。
ずる過ぎる!
「いえ、これもお仕事のうちですから」
よし、完璧に返答してみせました。このソラーティア家の専属メイド、お見事ではないでしょうか?
一流のメイドこそどんな本でも、魔力方程式でも解いて見せます。あ、厳密に言うと方程式はないですが。
でもこの本の中からこの神話を選ぶなんて…流石はソラーティア家の跡継ぎなんだなぁと言ったところですね。この家では特別な教育でもしているのかしら。やはりこれは財力の力しかない。貴族はずるい!でもこの家だから許す!
しかし、こうも明らかに子どもが読むべきではない本をこうも興味深々に読まれると、私が惨めに思えてくる。
そうなる前に、次の出来事と言って参りましょう…
…
これは他の出来事とは変というより、私個人の出来事で、ラルフェット様を見かけた時の出来事ですね。
出来事というか今の話なんですけどね、ラルフェット様が家の近くで剣の修行を見ていたら、彼がにじみ出る汗、そして華麗な剣裁き…正に騎士の鏡といっても過言ではありません。
そこが私が一番弱いところ。
そして彼のクールな見た目、顔、声、全部癒されます。
彼が何を言っても勘違いしそうで危険他なりません。
私が近くで観たかったので近づいてみたのです。
「今日も剣の修行が大変そうで」
「いえ、これは騎士一人前のとして必要なことですので」
まあ、それをしれっと言ってしまうところもなんてかっこいい。
「十分すぎるぐらい、お強いではないですか?そんなに頑張っただめです」
「いえ、それじゃあ、ダメなんです…それは僕にとって単なる甘えに過ぎないのです…あの日のようなことを回避するためにも…」
「ラルフェット様…」
だめだ…これ以上聞いていたら倒れてしまいそう…
何年か前の出来事で立ち直れずいたんです。酷かったことでしょう、あんな野蛮な人たちと戦わなければ行けなかったことが…そして、何人も怪我をしたりと、それは忘れることが出来ませんもの。
こんなにも正義感に溢れているなんて…
「素敵です」
「えっ」
「だって、過去の過ちを繰り返さないために強くなる。それは素敵と言わざるを得ません。でもラルフェット様がこんなにも頑張ってしまったら、私のお仕事が増えちゃいますよ」
「あ…」
ラルフェット様が困っている表情するもの良い!
じゃなかった。
「そ、そのラルフェット様のために人一倍お仕事しても良いと私は思いますが、そんなにも自分を追い込んだらそれこそ立ち直れませんから。どんなにつらい時でも私がそばにいてあげますよ」
ラルフェット様が目を大きく開いて、はっとしたような顔で見つめる
「ルテラ様。感謝いたします。剣を振るうだけでは守ることが出来ない。なら何をやれば良いでしょうか?」
うん?なんか変な感じになってきたようだけど、せっかくラルフェット様がこうもいってくれるんだし、一流のメイドとして喜んで教えてあげます。
「まずは、趣味を始めてみてはいかがでしょうか?何か剣の修行になったりすると思いますよ。私事ですが、前にそういうひらめきもありました」
「なるほど、ありがとうございます。ルテラ様」
「困った時はお互い様ですよ、ラルフェット様」
こうしてロマンティックなひと時が終わるのでした。
何もロマンティックなことがないって、だ、か、ら素人なのよ。
でも、確かに、ラルフェット様はまだ私に心を開いていないように思えるかもしれませんが、
それで良いのです。
私は外を出ないと言っていたのですが、でも今日は特別に外の空気だけでも吸おうと家から少しだけ離れている所で息抜きしました。やはり自然が一番。
「ふぅ」
私はこの国の空気がとても心地よく思う。たくさんの命が流れるような感覚がする。
そう楽しんでいたところに、セイレン坊ちゃまの声を聴いたと思い、その様子を少しだけ見ました。これは子守ですよ、断じて過保護とか盗み見をするとかそんな悪いことはしません。
見たところ、岩石の近くで、何かをやろうとしているようです。
坊ちゃまは片手を出し、ことを構える。
すると、彼は目を閉じて、念じようとしているのでしょうか?
まさか、魔法の練習だったりするのかな。そうだったら、この子もやっぱりごっこ遊びとかが気に入っているのかな。でも、不自然だと思うのは、彼が他の子どもと遊んでいるわけでもなく、ただ、自分で何かを極めようとしている感じなんです。
そうして、念じると、やはりなのも起きない。そう、それが普通。子どもがおとぎ話のように、すごい力を見せるのはあってもならないし、あったところで許すはずがない。
そう、許すはずが…
「これではだめだ…」
セイレン坊ちゃまの周りには雲が一気に晴れて、風が強くなっとように感じた。
これは自然によるものじゃない、これがセイレン坊ちゃまの力?
でもそれで納得をしていない。なんて恐ろしいのでしょうか。
「やっぱり何もできない…か」
彼がそう言った時、その雲は元通りになっていた。
子どもが雲を操る?これは私の見てきたセイレン坊ちゃまなの?あり得ない。
いえ、きっと憑りつかれてるに違いないわ…でもそうじゃないんだとしたらあの力は一体…
とにかく、これは誰かに伝えないといけない。きっとゼアドール様が何とか聞いて下さるかも。
…
私は一晩中考え込んで誰かに言おうとしたのだけれど、何が正解なのかが分からない…きっとテルト様とセネア様が自分の子どもが魔法の素質があることに喜ぶのでしょうけど、もし何か問題があればと考え込んでしまう。
でも、自信を持って誰かに言わないと、それこそだめだ!
ということで、セイレン坊ちゃまの話をゼアドール様に言いに行こうとしたところ、
そこにはセイレン坊ちゃまと、ざあどーる様がすでにいた。
これもまた、入っていけない雰囲気だ…でもこれは、子守と、メイドの務めですので、盗み聞きとはなりません。
「ゼアドールさん…最近変な夢を見るんです。そしてそれを見ると自分が何者なのだろうと感じるのです」
やっぱり…セイレン坊ちゃまは憑りつかれているの?もしそうなら悪魔を払う人を雇わないといけなくなりません?いや、いくらセイレン坊ちゃまでもそんなことを見過ごすことが当然できません。
ゼアドール様はそれを聞いて、笑みを浮かべる。
「セイレン様、それは誰しも思うことなのです…それにこれから自分を知る機会がたくさんあるでしょう…きっと大丈夫です」
セイレン坊ちゃまが横に頭を振る。
「いえ、違うのです…まるで自分の中に別の自分が入っているような感じが拭えなくて、彼の記憶が出てくるのです…でも多分それも本当にあった出来事で…」
ゼアドール様それを聞いて、
「なるほど…それはきっとセイレン様の前世なのでしょう。時々自分の記憶のようにそれを見る方がいるのです。ですから安心なさって下さい」
セイレン坊ちゃまはそれを聞いて納得はしていない様子だったけれど、
「でももしそうではないのだとしたら…」
「じゃあ、きっと何かの道しるべでしょうかね。でも何がどうあれ、彼の記憶もしっかり覚えておいてみては?きっと何か良いことがありますよ」
「そうですね…多分僕の勘違いかもしれませんね…ありがとうございますゼアドールさん」
不安の面影がありつつ、セイレン様はその答えを信じるかのように去っていた。
そして盗み聞き…ではなく、子守とメイドの務めを見事にこなす私でしたが…
「どうせ聞いていたんでしょう、ルテラ」
「ひぃ!」
ゼアドール様はため息をついた。
「一応自分も元騎士なんですから、それぐらいの気配は感じますよ」
私は勇気を振り絞って姿を現した。
「すいません…」
「で、あなたも何か私に用ですか?」
「いえ、用は特に…でもセイレン様の様子に気になりまして…」
「そうだったのか。でも君に心配されるほどではないですよ」
「いや、違うのです…」
「何が?」
これを言ったら怒られるかもだけど…感じたことだけ言ってみよう…
「余計に大人って感じがしませんか?」
「まあな。でもセイレン様のようなお方は騎士学校でも稀にはいたよ。人を見かけに判断してはだめだ」
「確かにそうですよね…」
そして油断して気を抜いていると、脳天に私の頭がべちっと突かれた。
「あぎゃ、痛いですぅ!」
「言葉遣いが荒い!そして盗み聞きはもう二度とするな」
「はい…」
そしてこの一件がとりあえず終わったのでした。
…
その数日後、私はまた、ゼアドール様に教訓を受けているのでした。
自由時間があるとは言いましたが、私がうっかり一流の冒険者兼メイドになるべく、それを聞いて目を輝かせるゼアドール様は今日料理について教えるのでした。
「ルテラよ、もし一流の冒険者になるのであれば、料理が出来る人にならなければならない」
「ゼアドール様、それは良いのですが…それなら剣の修行とか魔法の修行とか色々あるのではないでしょうか?」
「もちろん、それも大事だ。だからこそ今日は魔法を使って料理をするのだ」
「はい?」
「魔法を使って料理をするのだ!」
「それは聞きました…」
「なら話は早い…」
ゼアドール様は納得するように言うのでした。
やっぱりこのような人が王直属の騎士教官だというのは未だに信じられない。
料理を準備する少し前では、食料調達まで自力でやって来い!とか何が何でもこの食材を手に入れるように交渉して来い!とか言ってきて…乙女には辛辣な行いをさせるようなことを命じるばかり。で、今日は料理だから少しはマシになったかと思えばこんな羽目に…
私がピリピリしていると、ゼアドール様は食材を取り出した。
「じゃあ、今から料理をして見せろ」
「レシピの指定は…」
「それを自分で考えるこそ、一流のメイドなのだろうが」
「はぁ」
「溜息をしない!」
「はい!」
そして、
「まずは、魔法をどれだけ調節するかが踏ん張りどころだ」
そのようなセリフを料理をする場面で言うかな…っと思っていた所。
意外にも魔法で調節する大変さが分かってくる。魔法は発動する時だけが踏ん張りどころではないというわけなのだ。
「気が緩んでいるぞ」
「はい!」
魔法には形態というものがあって、繰り出す魔力の量に比例する。料理程度のものなのであれば、一番元の素質となる形態を使う。
今は水の魔法と、火の魔法を同時に使い分けている。地味に、苦痛である。
「じゃあ今度は火を弱くして、水の魔法を解くんだ」
「はい!」
今度はちゃんとした料理器具で煮込み、焼いたりとしていました。
「いいか、料理は冒険者にとって一番重要なことなんだ。外を出れば、どんな食材が安全か、体に有害かは知ることが第一なんだ。しかもそれは自分の日の調子にも影響するからな」
「重要なのはわかりますが…旅をしていたら食堂とかあるじゃないですか?」
「じゃあ、お前は見知らぬところで、店が無かったとき、どうすんだ?それでも食堂を探すか…」
「確かに…それは考えてなかったです…」
「何よりも一番想定すべきは最悪の事態だ。食事なしで戦い続ければ、それこそ体は持たん」
なんとなくゼアドール様の言っていることを理解しつつも、あまりにも大げさに聞こえてくる。
そもそも、冒険者というのは、ギルドに与えられたガイドに沿って、どの道に行くのかを教えられるのであって、このようなやり方は本当に最悪の事態にしか考えられない。例えば、突然目を覚ましたら別の大陸に飛ばされた!とか…でもそんなことは普通ならあり得ないし。
でもまあ、修行というのは間違いないのかもしれない。
そして、また魔法使って、料理を仕上げ、完成した。
「ふう、料理が出来ました!」
「では味見と行こうか」
ゼアドール様は真剣な眼差しで私の作った料理を味見してみる。
「うーむ。なるほど…最初にしてはなかなかだ」
よっしゃ、これで開放されるとほっとしていたら
「だが、一流の料理人なら失格だ!」
「え…」
別に料理人になるためにここにいるわけではないんだけどなぁ…
「その納得いってない顔はなんだ?心から美味いと感じること喜びを持てぬというのか?」
「いえ、決してそんなわけではないですが」
ゼアドール様がはぁっとため息をした。
「まあいい。とりあえずこれで冒険者になってもある程度は大丈夫だ」
「あの、まだ戦いの方は…」
「それはお前には早い!」
「はい…」
こうして魔法の初歩的な修行と変な料理の審査を受けたのでした。
うん、やっぱり一番変わっているのはゼアドール様だ。
…
後日譚、
私はセイレン様のように手を構えて、彼のマネをしたのですが、やっぱり何も出ませんでした。
でも諦めきれなかった私は外で勝手に魔法の練習をやっていると、ゼアドールにこっぴどく怒られ、一日中反省させられましたとさ
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