第一話 選ばれしものは光が見えない

僕は目を覚ます。



自分が何処にいるのか分からない。ついでにはどうやってここにやってきたか分からない。


その気分は、自分という存在が空になっている感覚だった。僕は元から存在していたのだろうか…


それとも僕はこれから存在するのか…



というよりこの空間は一体なんだ?


周りを見ると、そこには不安定な景色があった。ここがちゃんとした場所なのかどうかも疑わしい。


これは夢と思っていてもおかしくはない。でも自分は不思議とそうは思えない。



頭が空っぽでとても混乱している。


自分の目の前が映像を少し乱れたその直後。



「...⨋ae...e⨕rf..irlz....」



一気に視界がきれいに浮かびあがる。今まで不安定な空間がこの声で消し飛んだと思うぐらい、雰囲気が変わった。



それは人を呼んでいる声だった。人が目覚めるように語りかけてくる。


洞窟の中で何度も響くような音とともに、その者は語りかけてくる…



「⨋wae...e⨕rf..irlz....tsil....」



でも何を言っているのか聞き取れなかった。今まで聞いたことのない言語だ。自分にはまだ理解できないが、理解したい、そう思えるような言語だ。そしてすんなりと入ってくるようなささやきは何回も聞こえてくる。



「誰だ?」



返答しても静かになっただけだった。何故かあちらの方から声がかかるのに、僕が答えても、なにも反応がない。おかしい。まさか語りかけている人が別にいるというのか?



周りを見てもその囁く声の正体が分からなかった。何もかもがはっきりとしなくて、感想もろくに出来ない。



そして、またあの声が聞こえた。



「iz...el...⨙olase....」



その声の正体をとりあえず知りたかった。その理由すらも分からない。でも知る必要があった。



「待って…くれ…」



自分が見失いそうで、手を伸ばすしかなかった。その響き渡るような声に引き寄せられる。


だけど、その声は薄く消えていった。



そしたら視界が真っ暗なった。



「一体…僕は何なんだ……?」





ここはどこだ?



というよりどういう状況なのだ?



何度も違うところにいるようで何が本当かどうかが理解できない。


どこが現実なのか自分でも分かりそうにない。



目を開けると、そこには二人の大人が僕を眺めていた。


髪は茶髪、年は30代前後で、恐らく、言葉を付けるなら……カップルというものだろうか?



それだけではない、その後ろには……メイドらしい人物もいる。



何よりも異常だったのは彼らの表情だ。最高の笑みでこちらを見ている。



まさか、僕を拾ったのはこの人たちなのだろうか?



でも…なぜか自分はこの出来事に驚いてはいない。



どうやら僕はこの状況を知っている、これはとても嬉しい出来事の時にやる表情だ。



だとすればこの人たちは…誰で、何に喜んでいる?人を拾って、安心するのは分かるが、こんな顔まではしない。



ということはそれは僕の存在か?それとも今僕がしていることに対してなのか。



はたまた分からない…



もしかすると、僕は死ぬ間際で、この人たちに偶然助られたことになる。そうなのであれば、この人たちは恩人だ。



「・...・...・..・?」



二人のカップルは僕に向かって、困った顔をしていた。



やっぱりおかしい…今度は心配している。別に悪い表情もしているわけでもないはずだ。



「・...・...・..・」



「・...・...・..・」



彼らの言っていることは一切分からない。


ということは多分、僕が不自然なことをしたということなのだろう。


この状況を知るためにもこちらからでも話しかける。



「あーう?」



うん?おかしいな…ちゃんと喋ったつもりだけど…



でも二人ともほっとした様子だった。多分生きているというだけで安心しているのだろう。


そしたら男の方はじゃれた態度で俺を見てみる。多分何かの反応を見ているのだろう。



「おーおーは?」



そしたら、男の方は笑っていた。


どうやら安心したようだ。



流石に馬鹿らしくなったからしゃべりかけるのは諦めることにした。


多分今はまだ喋べれないということだろう。



僕は起き上がろうとすると、どうにも起き上がれない。


なぜだ?やはりそれほどの致命傷だったのか?



それに、よく周りを見たら、ぼんやりして、おかしい気分だ…


でも、瀕死状態のようなものではない、ただ、疲れている感覚よぎる。



そしたら、女の方がにっこりと笑っていた。


そして僕は何度も起き上がろうとしたが、起きれずにいなかった。



「・...・,,,・..・! ・…・…・…!」



すぐ後に、その女は俺の近くを包むように抱き上げる。


顔がとても近い…こうやって見ると女の人って……



うん?もしかして、この女が僕を支えているのか?



だとしたら普通とは思えない。


この女の方はきっと何かの怪力がある。


こんな風に持ち上げられるほど僕は軽くないはずだ。



なぜそれを知っているか分からないが、それははっきりしている。



ということは、自分の体が小さいということなのだろうか?


それともあちらが大きいのか?



なるほど…



多分、僕はこの出来事どういう状況か知っている。これは生まれるという嬉しい出来事だ。


そして、彼らはカップルではなく、僕の親なのか。



何故僕はそれについて知っているのか分からない…


でも感じたことがある…はずなんだ。


僕はこれが普通と出来事とは思えないけど、具体的な説明ができない。



女の人は喜びながら僕の頭をなでていた。ここから見てみる人の手は大きい、そしてその手が僕の頭に触れた時、ものすごく温かい。その温もりはどこか懐かしい気がする。



それでも僕は一方的に触られると、どうしても変な感じだった。多分最初はこういうものなのだろう。



というより、僕はどんな人なんだ?


僕の名前は?


僕はどこの出身地だ?


そしてここは一体どこなんだ?


もっとも、彼らは何の言語で喋っているんだ?


全く分からない…



きっとこの二人が僕に教えてくれる。



初めまして、お二人方。


お世話になります。





あの日から1か月の記録。



僕はこの世に生まれたというのが自覚した。


生まれた瞬間は何もはっきりとしなかった。多分その状態では何もかもぼんやりしていてしっかりと把握できないのだろう。というのをどこかで聞いたことがある…



自我というものがよく理解できなかったが、いまなら少しわかる。自分を赤ちゃんというのを知りながらはいはいするのはどこか抜けている気がするが、多分気のせいだ。



自分はこのことについて違和感があるのだが、きっとこれが普通なのだろう。ただ僕自身がそうは思えないだけだ。



しかし、一ヶ月が経ち、脳も慣れているせいか、ここがどういう場所なのかを知ることが出来た。


これはお金持ちでよくある宮殿の中だ。別の言語で言うとパレスだったけか?



今はあの女の方が、僕を抱えながら歩いている。


自分としては、何故か、お母さんと言えずにいる…だからこの女の名前を知るまでは女の方と勝手に読んで頂く。



「・…・…・…・♪」



ものすごいご機嫌にこちらの様子を伺っている。ものすごい元気な方だ。


そうすると、都合よく僕を持ち上げる彼女はこの家の案内役となった。いや、多分自分から見せたいのだろう。そんな気がした。



この女の人が僕持ち上げた時、僕はこの家を見て圧倒されていた。自分が目の当たりにしているものが本当に不思議に思えるぐらいに…



その作りは芸術的で、どこか文化的な象徴があるようにも思える。


階段の手すりは特別な石で彫られていて、円状で作られている。



そして、その階段から降りた後、待ち構えているメイドや執事がその女の人にお辞儀をして、家事などの手伝いをしている。(僕の世話もありがたくそこに含んでいる)



「・...・,,,・..・…」



女の人は態度を変え、別人のようにふるまっている。先ほど僕に向かって笑顔を見せていた人とは思えない。



「・...・,,,・..・・...・,,,・..・」



メイドの方は若くて元気な人のようだ。どんな動作も勢いがありながらも、メイドとしての凛々しい姿が目に浮かぶ。なぜこの人がこの家のメイドなのか直感的に伝わってくる。



そして、家は中のものだけでなく、庭園もそこにあった。ここにいるととても落ち着くのはなぜなのだろうと思う毎日だ。自分の家がこんなにも心地良いと思うと、ここから出たくはないものだ。



しばらくこの女の人が僕を運んでいると、男の方が帰ってきた。



「・...・,,,・..・」



「・...・,,,..…・...・,,,・..・!」



彼は疲れているように見えた。そして、女の方が笑顔で迎えると、男の方も喜んで駆けつける。


とても良い関係だ。どこか関係に初々しさも残っており、しっかりと会話しているのを肌で感じている。



あと、今まで気付かなかったが、彼はいくつかのバッジがある。それは地位のようなものだと推察する。僕の父親は一体何者なのかをこれからも知っておきたい。



一か月この世にいて、これだけは言える、僕は凄い家の一員だということだろう。





記念の半年の記録…それは僕にとって思い出深い者になりそうだ。



前よりも言語がすんなりと理解できるようになった。でもどんな言語と呼ぶのかは分からない。


ちなみに、赤ん坊の状態というのは難しいこと一気に覚えるのではなく、少しだけ難易度があるものから理解するようになっているというのを実感した。そして、僕の両親がしっかりとした言葉を使うからか、言葉の表現も流暢になりそうだ。



「ほらセイちゃん、おきましょうね!今日は大事大事なことがあるんだよ。そして、セイちゃんはその主役になるの♪」



そうすると、元気な母は僕をぎゅっと抱いてからベットから降ろしてくれた。



「大はしゃぎだな全く、でもわが子がどのような未来を待ち受けているのか興味がある」



「もう、真面目なんだから、あなた!」



「しかし、こうも元気に育ってくれたことには驚いているな。これが普通なのだろうか?」



「セイちゃんは普通なんてありえない!セイちゃんは特別だもんね♪」



僕はか弱い足を使いながら歩いている様子を僕の母は笑顔で見守っている。



「そうだな、育ち盛りなところが元気な証拠だ。元気よく育つんだぞ、セイレン」



そのあと、親は家の外に出て行き、執事とメイドたちが僕の食事を用意していた。



僕の名はセイレン・エル・ソラースティアのようだ。


なにか読み物にでもいそうな名前だ。ラノベというものありそうだ。



この家を見たところ、本棚が多く並んでいる。両親は世の中に対して勉強熱心のようだ。


いかにもラノベと呼ぶものがあるはず。


しかし、どこを見ても、そんなラノベがないのは何故だろう?



前は全然歩くことさえ出来なかったが、今は足を使って移動できるようにはなった。しかし、初めて足を使うのはこんなにも難しいとはこんなにも思わなかった。それでも、進歩していることには感動している。1年が経つのが楽しみだ。



そして色々とこの家で探ったところによると、ここは、アメルラス王国という所らしい。父親とかメイドや執事がよく場所や兵隊を表現していた時に使っていたからメルラス王国なのだろう。関係ない話だが、父親は結構難しい話を毎晩しているのもあって、アメルラスの民は余程哲学的な考えとか自己表現するものが好きなのだろう。



ともかく、僕はアメルラス王国出身の貴族の末裔ということになる。しかし、まだどれぐらい偉いのかは流石に調べることはできなかった。



僕はこの家の窓の方に行ってみると、そこは綺麗な森林に、綺麗な水が流れている。


この宮殿らしき所はどうやら自然と同化するように存在している。



家の中には色々と芸術的なデザインがあり、恐らく特有の文化があるのだろう。



しばらく外を見ていると、そこには両親がそこで待っており、向かい側から特別にゲストが来ているようだ。その人が乗り物から降りと、それは若い黒髪の男だった。その人はどこか律儀なところがあった。でも僕はこどもだ、大人の事情はまだ理解が出来ていない。



「お迎えにやって来ました。準備はよろしいでしょうか?」



その人は制服を着ており、彼の横には剣が付いている。これは剣士というやつなのだろう。


予想していたよりも淡々としていて、肝が落ち着いている。冷静な表情なのに、彼の暖かさが伝わってくる。



「ああ、しかしもう6ヶ月か…」



「セイちゃ…いえ、セイレンに何かあったら大変ですわね。本当に問題はなくて?」



彼は手を胸に当てて、母に一礼をした。



「大丈夫です。ミストロードまでに何か問題は起きないかと。万が一の場合は命がけでお守りすることを誓います」



「何があっても信じています。自分の心配もなさい」



「は、精一杯気を付けます…」



「そうではなくて…まあいいです」



どうやら、僕はミストロードというところに連れて行かれるらしい。色々と盗み聞きした会話から察するに、赤ん坊が生まれてから6ヶ月、ミストロードである恒例の儀式がある。そこは名の通り、霧に包まれている道である神殿らしき所に連れて行かれる。その場所はアルメラス王国のともう一つの王国の間に存在する。ミストロードとは呼ばれているが、途中から、川の流れに沿って、上に向かう不思議な道だという。



そこでは僕だけでなく、少なくとも他の貴族もやるのである。伝承によれば、ミストロードというのは精霊に関係しているとかも聞いたことがある。僕はそんな超常現象のようなものを語ることは出来ないが、ありえそうな話ではある。



「危ないですよ、セイレン坊ちゃん」



僕の後ろにいたのはセアドールという執事だった。容姿は比較的に若く、身長が高かった。その方は元々、王国で兵隊の教官としてやっていたのだが、ある生徒との問題があって、辞めたという話だ。


人を教える立場の人が、お仕えに回るのは珍しい。彼は僕を持ち上げて、両親のもとに持っていかれた。



「セイレン坊ちゃんをお連れいたしました」



「そんなにしなくても大丈夫だぞ?仕事はしっかりとこなしているし…」



僕の家族、ソラーティス家はどうやら大きな土地を所有している貴族らしい。


両親はそんな偉い立場にいるのだが、執事やメイドには同等の立場で扱っている。そのせいで、周りからはあまり良く思われていないと聞く。理由は定かではないが、自分にしてみれば全く酷い話だ。



「いえルテルト様、甘えは不要です。それより、ミストロードに行く時よりも、帰る時の方が危険です…ラルフェット様、大変になるかと思います」



「その根拠とは?」



「もしもの場合…いや心配が過ぎるかもしれません」



ラルフェットはセアドールの不安な顔を見て、彼が何を言いたいのかが分かっていた。


両親の顔も険しくなっていた。



「分かりました。出来るだけ気を付けます」



立場的に、剣士の方が上だと言う気がするが、ラルフェットという剣士はどこか人を一倍尊敬できるような態度で人の話を聞いているようだ。それともセアドールがすごい執事という考え方もある。どちらにしても、両方の気遣いの出来るような人に育ちたい。


よく考えてみれば、執事と剣士が会話することが不自然て思うのは自分だけなのだろうか?



「でも、狙われるということは、わが子が才能あるということです。何があっても屈しません」



そして、何度も物騒な言葉を並んでいるが、このミストロードとはどんな場所なのだろう?そして赤ん坊がただの儀式をやるだけで、全員が危険に晒されるようなものなのだろうか?


自分が想像できるのは狂暴な動物とかというぐらいだ。きっと大丈夫だろう。僕は特別な力を持って、生まれていることなんて本来あり得ないこと。これはおとぎ話ではあるまい。



ただ、これからが自分の人生の始まりということが分かった。



これからもっとこの世界、そして自分について知りたい…



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る