第13話 熱が冷めうる夜の風
「おい。諒。大丈夫か?」
吉藝先輩が声をかけてくれる。
「はい…、まぁ、大丈夫です…。」
俺は今、腹を抑えながらベンチの後ろに座り込んでいる。
「お兄ちゃん!大丈夫⁉」
「諒くん!大丈夫⁉」
「大丈夫だよ二人とも。心配しないで。」
本音を言うと、すごい痛い。 二人の声が骨に響いて、じんじんする。
「…ちょっと待ってろ。」
「え?」
そう言うと、吉藝先輩は、輩三人の服の襟を掴んで奥の草むらの方へ行った。
何をするんだ?と思っていると
「ぎゃあっ!すいばべん!やめへっ!!」
「おごぉあっ!いだい!骨はそっちに…、ぎええぇっ!」
「ほぐっ!ぐぼっ!ごっはぁぁぁ!」
何やら聞こえてはいけないものが聞こえてしまった。
そのすぐあとに、吉藝先輩が草むらから出てきた。
「ん?あぁ、今後俺らに、いちゃもん、手出すなって話し合っただけだよ。」
明らかに話し合いの声ではなかった気がするが…。聞かなかったことにしよう。笑顔が怖い。
「吉藝ー。どうかした…。え⁉諒くん⁉大丈夫⁉」
屋台から瀬奈先輩が歩いてきた。お面やらなにやらをじゃらじゃら身に着けている。やっぱり、俺が座り込んでいることに驚いていた。
「おい瀬奈。デカい声を出すな。諒は今、腹を殴られて座ってるんだ。響くからやめろ。」
こちらに来る前に吉藝先輩に止められた。
「え?諒くんが殴られて、吉藝がここにいるってことは…。まさか吉藝、やったね。」
「なんのことだかさっぱりだ。俺はただ話し合いをしただけだ。」
「拳で、でしょ…。」
「なんか言ったか。」
「何も。…それより諒くん。大丈夫?結構痛むでしょ。吉藝。どうする?もう今日はお開きにする?」
「そうしたいな。危険だし。」
ということで、今日はもう解散命令が出された。煌雅と巴には、先輩たちから連絡してくれるらしい。そして帰り際に
「おい諒。腹、痛むだろ。これ貼っとけ。」
そう言って、湿布を渡された。
「…ねぇ、お兄ちゃん。その…。」
「謝らなくていいぞ。妹は守るのが兄の使命だからな。」
「私も、謝る。ごめんね諒くん。」
「大丈夫だって。」
帰り道、二人に謝られた。
「吉藝先輩が助けてくれたし。俺のけがだけで済んだから。綺麗な二人に、傷つかなくてよかったよ。」
そう言うと二人は俯いてしまった。
「まぁ、どうしてもと言うなら今度何か奢ってもらおうかな。」
「分かったよお兄ちゃん。体で返すね。」
「やめろ。僕は某物語の主人公みたいに妹にまでキスするような変態ロリコンじゃない。」
あのキャラ憎めなくて好きだけど。
「嘘だよ。…じゃあ月さんと割り勘で何か奢るね。」
「そうだね。」
二人の顔から暗い雰囲気が無くなった。
というか千秋よ。あの雰囲気であの言葉ぶっこんでくるなよ。
ドォー…ン ドォー…ン ドォー…ン
「わぁー!花火だ!お兄ちゃん。月さん!花火!」
「言われなくても見えてるよ。」
その打ち上げ花火はとても綺麗だった。
月さんの方を見ると、目を輝かせ、まるで子供に戻ったような反応をしていた。
ドォー…ン ドォー…ン ドォー…ン ドォー…ン
ドッオオォォー… ン
「綺麗だったね。」
「そうだね。じゃあお兄ちゃん。花火も終わったし、帰ろ!」
そう言って千秋と月さんは先に走って行った。
「おい、危ないぞー。」
俺も走って二人のところへ行った。
その日は、花火と同じように、月がとても綺麗だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます