第12話 ふざけた輩に絡まれる
「わー!すごいね!」
俺たちは今、夏祭りに来ている。
「あれやろう!あ、あれも楽しそう!吉藝!行こう!」
「落ち着け。そんなんだったらすぐ迷子になってアナウンスされるぞ。高校生にもなって、自分の名前アナウンスされたいか?」
「それはいやだ。」
「じゃあ、落ち着いてはしゃげ。」
先輩二人のやりとりを、後輩四人は、端から見て笑っている。
「諒くん。」
「なに?月さん」
「あの約束、忘れてないよね。」
「約束?あぁ、夏祭りのお代全部奢るってやつか。」
思い出した思い出した。
「そう。じゃあまずは、綿あめでも奢ってもらおうかな。」
「はーい。何色がいい?」
「水色。」
「分かった。」
俺たちのやりとりを四人が温かく、微笑ましく見守っていたなんて、祭りが終わってから知ったのだった。
「射的やろうよ。諒くん。」
「いいね。一等は…、等身大のクマのぬいぐるみか。どうする?多く取ったほうが勝ちか、一等を取ったほうが勝ちか。」
「もちろん、一等を取ったほう!」
「オッケ―。じゃあいくよ。」
俺たちは同時に弾を打ち、勝ったのは
「とったぞ。」
吉藝先輩だった。
「私達が三回やっても取れなかったやつをっ……。」
「一発で取るなんてっ……。」
「まぁまぁ、二人とも。吉藝はこういうとこあるから。仕方ないよ。」
「なんだ。俺が悪いみたいな言い方だな。」
「だって、吉藝、変なとこで運使うじゃん。」
「これは運じゃない。ただちゃんとやっただけだ。」
そう言い張る先輩。なんだかとても悔しい。
「ていうか吉藝先輩、その手に持ってる大量の綿あめはなんですか。」
巴がそう聞く。確かに多いな…。五袋くらい持ってるぞ。
「まぁまぁ、せっかくの祭りなんだから。楽しまないと。」
「吉藝はね、見た目からは想像できないけど、結構な甘党だよ。ちなみに辛いもの食べれないから。」
辛い物食べれないのか。大好きだと思ってた。
「俺キムチ嫌いだ。Co●o壱の一辛でも無理だ。」
意外だったな。そんなに辛いの苦手だとは。
「あと、コーヒーも嫌いだ。ブラックが大っ嫌いだ。せめてガムシロ二つは入れてくれないと飲めない。」
苦手なもの多すぎねぇかこの人。第一印象とまったく違うんだが。とんでもなく甘党だな。
「ま、俺の話は置いといて、祭り楽しもうぜ。俺の話だけで潰す気か?」
「いやですね。」
「右に同じく。」
「右に同じく。」
「右に同じく。」
「右に同じく!」
なんか一人混じってるな。
「自由行動にするか?全員携帯持ってるだろ。時間指定と場所指定だけしといて、遊ぶか?」
「そうしましょう。」
「右に同じく。」
「右に同じく。」
「右に同じく。」
「右に同じく。」
「右に同じく!」
「おいお前ら。何か勘違いしているようだがな、ここは軍隊じゃないんだぞ。じゃあ、二十一時ごろ、来るときに集合したところでいいか?」
「いいですよ。」
「右に同じ…。」
「言わせねぇよ?」
「大丈夫です。」
途絶えさせられた。なかなかやるな。
「じゃあ、ひとまず解散。」
「「「「「はーい。」」」」」
「月さん、俺と一緒に来るの?」
「だって、まだ全然奢ってもらってないから。」
まぁそうだと思っていた。
「なにか食べたいものある?」
「今は大丈夫。ちょっと休まない?歩くの疲れちゃった。」
「大丈夫?」
俺たちは、近くにあったベンチに座った。
「楽しいねぇ。」
「そうだね。」
沈黙の時間が流れる。でもなぜかその時間が苦じゃなかった。
月さんのところを少し見てみると、微笑みを浮かべて祭りの風景を見ていた。
そんな中、その沈黙が破られた。
「わーっ!」
「うわあっ!誰だ⁉」
驚かしてきた正体を確かめようと後ろを振り向くと、そこには、手を顎の下で振っている妹の姿があった。
「ふっふーん!どうだ驚いたか!」
「驚いたもなにも、尾けるなって俺言わなかったか?」
「なんでわかった⁉」
千秋はなぜ気づかれたかわからないような素振を見せた。
「分かるに決まってんだろうが。俺はお兄ちゃんだぞ。」
「ちぇ。だって、お兄ちゃんがあの
こいつ、尾行してたことあっさりと認めたぞ。
「あの…、諒くん。あの人は?」
「あぁ、あいつは千秋。俺の妹。」
「ふーん…。」
「え?お、にいちゃん?その人…、もしかして?」
やばい!普通に隠すの忘れてた!
「あ、どうも。私、諒くんの友達の入江…。」
「言わなくていい!」
「やっばーーい!もしかしなくても本物ォ~⁉生で見れるとは思わなかったーー!!」
千秋はものすごいスピードで俺の隣を駆け抜け、月さんの目の前に来ていた。
遅かったか……。
「私、月様の大大大ファンなんです!あぁ~どうしよう!尊い!尊すぎる!!私死ぬのかなぁ!」
「あ、ありがとうございます。」
月さんは引き気味に感謝を述べていた。そりゃそうだ。
「おい千秋。もうそこまでにしておけ。あとで家で話してやるから。」
「ホント⁉ホントだよお兄ちゃん!」
うるさいな。近くで大声で叫ばれると耳がキーンてなるからやめてほしいんだが。
「おうおう、いい女がいるじゃねえか。」
「しかも二人!誰が誰にする?」
「俺の分も残してくれよ。」
そんな声が後ろから聞こえてきた。後ろを振り返ってみると、不良と思わしい三人組がこっちに向かって歩いてきた。
「お前ら。この二人に何する気だ。」
「おう兄ちゃん。両手に花とは羨ましいね。その花をこっちに渡してくれない?」
「嫌だ。」
内心、とても怖い。殴られるかもしれない。でも俺はここを動かない。さっきまであんなに元気だった千秋でさえ、怯えて俺の後ろにいる。
「嫌だとかじゃねえんだよ。渡せって言ってんだ…よ!」
こっちに向かって歩いてきた一人の不良に、俺は腹を殴られた。
「うっぐぅぅ…!」
「おい、まだやられたいのか?」
その不良が拳を振り上げたとき、
「ごっばぁ!」
その不良が飛んでいった。
「え…?」
前を見てみると、そこには、吉藝先輩がいた。
「大丈夫か?すぐに終わるから待ってろ。」
そう言うと、先輩は三人の不良をぶっ飛ばし、本当にすぐ終わらせた。
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