幕間  二組のその後

 煌雅と巴


 ピロン

 「ん?あり、今日はもう解散だって。残って祭り楽しむんだったら好きにしろって、吉藝先輩から。」

 「ふーん、なんで急に。――まぁ、残って楽しもう。理由は明後日聞けばいいし。」

 「そうだな。」

 携帯をポケットにしまい、屋台を見渡す。

 そして財布を覗き、残りの手持ちを確認する。

 「……うん!足りる!」

 「なにが?」

 「お金。」

 「あー、煌雅、昔から金遣い荒いもんね。」

 「うるさい。……ていうかお前は足りんの?りんご飴にチョコバナナ、綿あめと甘いもののオンパレードだったけど。」

 巴は指をVにして

 「大丈夫。今日の朝、姉ちゃんから万札二枚もらったから。」

 「ちっ、金持ちが。」

 俺がブーという顔をすると、ニマニマ笑いながらこっちを見てきた。

 「なんだよ。」

 「いや、奢ってあげてもいいよー。って話。」

 その言葉を聞いた途端に、俺の背筋がピン、シャキッと伸びた。

 そして手を広げながら

 「心の友よ。」

 と言った。

 まぁ、流石にやめてよ、と言われた。

 「奢るのには条件があります。」

 「条件?」

 そう巴は言うと、少し悩んだ顔をして、口を開き

 「わ、わ、わぁぁぁぁぁぁ‥‥‥。」

 赤面し、縮こまりながら言った。

 その様子がなんだかおかしく、つい

 「はっは。」

 と笑ってしまった。

 すると

 「……………。」

 すごい目力で下からキッと睨まれてしまった。

 「……ごめんって。」

 「謝られても許すかい。……まぁ、夏休み終わるまでうちの家事してくれたら、許すし、今奢ってあげてもいいけど。」

 おっと、結構きつい条件が来たぞ。

 でもまぁ、機嫌を治すためにもここは

 「分かったよ。夏休み終わるまでだから、あと‥‥‥、二十日以上‥‥‥。」

 「頑張ってね♪」

 俺の苦しそうな言葉を聞いた巴は、さっきの機嫌とは打って変わって、とてもニコニコしていた。

 まぁ、頑張るか。

 

 そのあと、俺はいろいろ奢ってもらい、結局二万円以上あった巴の財布もすっからかんになった。

 次の日からの家事が想像よりきつかったことは言うまでもない。




 瀬奈と吉藝

 「煌雅たちはもう少しいるそうだ。どうする?俺たちは帰るか?」

 「ん~‥‥‥。オム焼きそば食べたい。」

 「分かった。もう少しいるんだな。」

 そのあと、私たちは二人分のオム焼きそばを買って、近くにあったベンチに座った。

 「いや~‥‥‥、大変だったね。せっかくのお祭りなのに。」

 「久しぶりに人殴った。」

 「うん、その言葉は誤解を生むからやめようか?せめて不良って言おう?」

 「冗談だよ。……お前ともかれこれ四年以上の付き合いになるのか。」

 「どうしたの吉藝急に!明日死ぬの⁉」

 「いや、初めて二人で祭り来たこと思い出してさ。」

 「あぁ、あれからもう四年も経つんだ‥‥‥。」

 あの時は初めて吉藝の素顔見て、羞恥心でドギマギしてた記憶があるんだよな。

 思い返せば、あの時からかも。

 吉藝のこと好きって思ったの。

 改めて考えると身悶えしてしまいそうだ。

 「食わねーの?」

 そんな私の思いと裏腹に、吉藝は口いっぱいにオム焼きそばを頬張っていた。

 「食べるよ。」

 私は輪ゴムを外し、ふたを開けた。

 「うん、おいしそう。やっぱり祭りと言ったらオム焼きそばだよね。」

 「なー瀬奈。お前紅ショウガ食えたっけ。」

 「吉藝。いい加減好き嫌い無くそう?無理でも減らそう?」

 「無理だ。やっぱり苦手なものはいつまでたっても食えん。」

 本当にこんな図体してお子様舌なんだから‥‥‥。

 辛い物食べられない。好き嫌い多い。その上甘党。

 あれ?吉藝ってマジのお子様じゃね?

 「おーい?瀬奈ー?」

 「あっ、ごめん。……吉藝。この場はもらうけど、食えるようになりなさいよ。」

 「善処する。」

 絶対しない。

 久しぶりに食べるオム焼きそばはとても美味しくて、ついつい頬張ってしまう。

 ふと隣を見ると、吉藝がこちらをジーッと見つめていた。

 ついついむせてしまう。

 「よ、吉藝?どうしたの?」

 「いや、そんなに早食いしなくてもいいのになーっていうのと。」

 「いうのと?」

 「リスみたいで可愛いなーっていうの。」

 思わず二度目、むせてしまう。

 本当に心臓に悪い。あんたこっちの気持ちと自分の顔分かってるんか。

 「お?瀬奈じゃん!やっほー!」

 そう思っていると、遠くから呼ばれた気がする。その方向を見ると、友達がいた。

 「おぉ、やっほー。」

 って、この状況どうする⁉イケメンと二人でベンチに座ってオム焼きそば食べてるって!あっちと吉藝、学校同じだけど今の吉藝全然雰囲気違うし、気づかないと思う!いや気づかないでくれ!

 「おーい!‥‥‥って。」

 友達が吉藝に気づいた。

 あの顔は知ってる。一目惚れした顔だ。

 「瀬奈。瀬奈。ちょいちょい。」

 手招きされたので行くと

 「なにあの人!すっごいタイプなんだけど!」

 「あぁ、うん……。友達だよ。」

 この後の言葉は知ってる。何回も言われた言葉だ。

 「あの人紹介してくれない⁉」

 友達がそう言ったタイミングで

 「おい。瀬奈。帰るぞ。」

 腕を引っ張られ、そのまま連れていかれる。

 「あ、瀬奈~!頼んだよー!」

 最後にそう聞こえたが、掴まれた手の感触でそれどころではない。


 「吉藝。なんで腕掴んだの?」

 帰り道の公園でそう聞いた。

 「だってお前、露骨に嫌な顔してたじゃん。あんな顔してる時に連れて帰らない程、俺は人が悪くねーんだよ。」

 どうしよう。嬉しすぎる。私のことを考えてくれていた。ヤバい。あの子には申し訳ないけど、ニヤケが止まらない。 

 「そういえば、オム焼きそばどうしたの?」

 「俺のは全部食って、お前のは輪ゴム巻いて袋に入れてある。」

 「袋?なんで?」

 「念のために家から持ってきた。」

 少し驚いてしまう。祭りで念のために袋って持ってくる?

 「帰るぞ。さっき腕掴んだとき結構強く掴んじまった。アザになってないか?」

 「多分大丈夫だと思う。」

 「そうか。ならいいや。」

 あの子には悪いけど、紹介はしたくない。

 吉藝とのこの時間を知っているのは、悪いけど私だけでいたいから。

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