第9話 瀬奈と月は何処へ
「じゃあ始めるぞ。」
ただいま日曜の昼、今から勉強会をやるところだ。
「ちょっと聞いていいい?」
瀬奈先輩が手を挙げた。
「どうした瀬奈。」
「なんで私と吉藝が一対一なんだよ!」
どうやら吉藝先輩と一対一で勉強をすることが不服らしい。
「お前はバカか。この中で三年は俺とお前しかいないんだぞ。必然的にそうなるだろ。」
「でも…、吉藝はスパルタじゃん!」
「お前の学力に合わせて勉強するとなると、少し暴力的にはなってくるが安心しろ。死なない程度にみっちりしごいてやる。」
「やだ!こんなドSが先生なんてやだー!!」
「仕方ないじゃないですか、瀬奈先輩。」
二年(この中の)で一番の秀才、巴が瀬奈先輩をなだめた。
「私たちはまだ二年生ですし、吉藝先輩が言ったとおり三年生は二人しかいないですから…。」
「うぅ…。」
「一年から見ていたが、お前はテストのときだけいつも人が変わるよな。いつものお前はどこ行った。」
どうやら一年生の頃からこうらしい。
「仕方ないじゃん!勉強嫌いなんだもん!」
「私も同じ気持ちです、瀬奈先輩。」
「分かってくれるか月よ!」
月もいつもと違って肩を震わせている。
「あんなものをやって高校に行くくらいなら、しないで最終学歴が中卒のままでいいやと思ってた時がありました。」
「いつも大胆不敵なお前らは何処へ…。」
あ、吉藝先輩が遠い目をしている。
そこで俺はいいことを思いついた。
「月さん。」
「…なに、諒くん。」
いやいやモードに入っている。
「夏休みに夏祭りあるでしょ。」
「あるね。」
「テスト、赤点回避できたら奢ってあげるよ。」
「…ホント?」
少し目を輝かせている。
「ホントだよ。」
「じゃあ頑張る!」
(やる気になってくれてよかった。)
「瀬奈、俺からも全く同じことを言わせてもらう。」
「ホント!じゃあ頑張る!吉藝ってばいいとこあるじゃん!」
瀬奈先輩もやる気が入ったようだ。
「…あいつらチョロッ。」
なにか聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
それから一週間後、テストが始まった。
「月さん…、頑張って。」
「頑張るわ。諒くんこそ。」
俺たちは言葉を交わすと、目の前の監督の先生に視線を向けた。
「よし、試験時間は50分。全員手元にテスト用紙はあるな?それでは始め!」
バサッという音が教室中に響いた。
(ここをこうこうこうしたら、ここがこうこうこうなるから、そしたらここをこうこうこうして…。)
俺は全力で取り組んだ。
「あ゛ー!やっとテスト終わったー!」
三日後、巴さんを除く(委員会)全員が部室にいた。
「今回のテスト意外と簡単だったな。」
「おい、吉藝てめえ、私に対する嫌味か?」
(前もこんな光景見た気がする。)
「煌雅はどうだった?」
「今回のテストは手ごたえあったよ。結構解けたし。80はいってんじゃない?」
「おい、煌雅。陽キャは頭悪いんじゃなかったのか?」
瀬奈先輩が怖い目つきでこちらをにらんでくる。
「だれがそんなこと決めたんすか。俺一応勉強できるんすよ?」
「ぶっころーす!」
瀬奈先輩が煌雅にとびかかってきた。
「ギャーギャーするな、やかましいわ。」
吉藝先輩が一喝した。
「月さんはどうだった?」
「私も意外と解けたよ。なんとか赤点は免れそうだけど…、まだ心配。諒くんは?」
「俺も結構できたよ。こういうこと言うと嫌味に取られそうだけど、俺は成績いいほうだから。」
「嫌味にしか聞こえないんだけど。」
そうやって月さんと話していると、
「おい吉藝。あの二人どうだ?」
「結構いい感じだね。もうちょっとほっとくか。」
なにやら変な話声が聞こえてきた。
「で、あの約束、ちゃんと守ってよね。」
「あぁ、大丈夫だって。赤点取ってなかったら、ね。」
「このー!!」
夏休みは破産しそうだな。
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