第7話 入江 月の憂鬱
「あっちー…。」
今は7月、夏服の季節がやってきた。
「おっはよー!諒!暑くなってきたな!」
「おはよ、煌雅。そのテンションやめて…。さらに暑くなって溶ける…。」
「おはよー!二人とも!最近部活に顔出せてなくてごめんね!お!夏服似合ってるぜ二人とも!」
どうしよう、陽キャが増えた。どんどぉん溶ぉぉけぇぇぇるぅぅぅ…。
「瀬奈先輩!おはようございます!先輩も似合ってますよ!」
「ありがと煌雅!そういえば二人とも、今日水着持ってきた?」
「へ?」
「おいおい煌雅。持ってきてないのか?今日は全学年プール開きだろ?」
「やっべぇ!諒、先行ってて!すぐに取ってくるからー!」
うちの学校は、必ず7月5日に全学年プール開きがある。
「じゃあ私は先に行っとくから!じゃねー。」
「はーい。」
そう言って瀬奈先輩は先に行った。
少し歩くと、なんだか見覚えのある後ろ姿があった。
「月さん?」
「あ、諒くん。おはよう。」
彼女は笑って挨拶したが苦笑いだった。
「どうした?何か嫌なことでもあったの?」
「うん実はね…。」
「何?」
「私ね…、泳げないんだ。」
「へ?」
我ながら間抜けな声を出した。
「その顔!私だからってなんでもできると思ってたんでしょ!ふん!」
「いや、否定はしないけど…、ふふふっ。」
「何笑ってんのよ。」
「いや、可愛いなと思って。」
(あと、ちゃんと俺と同じ人間なんだなって。)
「か、可愛いってなんなのよ!もう!先に行くから!」
そう叫んで、月は先に走っていった。
(まぁいいや。どうせ教室で会うし。)
そうしてフラフラ歩いているうちに学校に着いた。
***
「はーい、それではプール開きを始めます。」
ついに始まったプール開き。月のところを見てみると
「ははっ、ははは…。」
まずい、乾いた笑い声をあげながら放心状態だ。
「じゃあまず、どれだけ泳げるか見せてね。」
月のほうを見てみると、
「・・・・・・・・・・。」
だめだ。かなりの重症っぽい。空を見つめてしまっている。ここで話しかけにいきたいが、話しかけたら絶対、絶対陽キャとか一軍女子に突っぱねられる!そう思っていると
「うわー!月さんスク水すごい似合うね!」
「そ、そうですか?ありがとうございます。」
あ、いつものネコ被り月が出た。でも少し照れてる…?
「はーい、次、入江。」
ギクゥゥッッ
今すっごい体震えなかったか?
「い、行きます。」
ザッバーン
さぁ月選手、入りました!おーっと、とてつもないスピードで減速しているぞ!大丈夫なのか!お、止まってしまったぞ!月選手、記録3m!
プルプルプル
その時、陸と水中で体が揺れた。
***
「あっはっはっは!」
「そんなに笑うことないじゃない!」
今は部室で話している。
「なんなのよあんた!普段やる気出さないくせに100m泳ぐって!」
「いや、昔から水泳だけは得意なんだよ。」
「なんなのよ、もう…。」
月はふてくされて後ろを向いてしまった。
「あ、そういえばまだ言ってなかったな。」
「・・・・・・・・・。」
「夏服、すごい似合ってるよ。」
「うるさい、今言うな!」
「すいません!」
「はぁ……、ありがと。」
俺はその言葉を聞いてホッとした。
「おーい、いちゃつくのは別にいいんだけどさ、ここでやらないでくれる?」
ビックゥゥ!
俺たちの対面の机の椅子で吉藝先輩が寝ていた。
「び、びっくりしました…。いるならいるって言ってくださいよ。」
「いや、諒が大声で笑うから起きちゃってさ。言おうと思ったんだけど面白くて聞いちゃった。」
「おーっす。あれ、なんか珍しい組み合わせ。」
((瀬奈先輩、まじでありがとうございます!))
俺と月は心の中で強くそう言った。
部活中、俺と月は一言も発さずにゲームに集中しているふりをしていた。
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