第5話 提示する条件と仲間入り
先ほどの場所からさらに奥へと進み、目的地である大テントへと到着した。その道中、テッカードの提案でエマを医療テントの方へと寝かせて、カイ達が話をしにいく間ルークが見ていてくれることとなった。
「……」
他のものよりも一際大きなそのテントには、デカデカとこの国のシンボルである龍の紋章が描かれていて、そこに要人がいるのだとぱっと見でもわかる。
一呼吸置き気持ちを落ち着けてから中へと入るテッカードの後にカイも続く。幕をくぐった先にいたのは二人の屈強な騎士とその間に挟まれて鎮座している金色の髪の騎士。
「テッカード、ルーク。ただいま任務より帰還しました」
「ご苦労だった。……ルークの姿が見えないが、口ぶりから察するに生きてはいるようだね。大変だっただろう、ゆっくり休んでくれ。……して、そちらが例の『亡霊』かい?」
金色の髪の下に清潭な顔つきを持つその男の蒼い瞳がカイを捉える。たった一瞥だけで絶対的な存在感を放つその男に一瞬たじろぎそうになるが、それを堪えてカイは前に出る。
「カイ・フリーデだ」
「王国騎士団の団長を務めるシュッツ・シルトだ。よろしく、フリーデくん。ここに来てくれたということは、我々騎士団に力を貸してくれると思って相違ないね?」
テッカードに連れられてわざわざこの場に出向いたのだからそれは間違いない。しかし、カイの中で渦巻く一つの感情が、この場でぶち撒かれないと気が済まなかった。
「ハッキリ言わせてもらうが、世界がどうとか民がどうだとか、俺の知ったことじゃない。俺はただ、エマのために魔の王を滅ぼす。そのためにアンタらには協力する。とはいえアンタら王国の尻拭いをたかだか村人がやってやろうってんだ。そのやり方にケチはつけさせねえぞ」
それを口にした瞬間、空気が一気に凍えたのを感じる。緊張感がこの空間に漂い、シュッツの青眼がカイの紫紺の瞳の奥を見る。それはまるで心の内を読むかのようで。
「貴様……! 黙って聞いていれば……」
激昂する男をシュッツが片手で制する。
「この現状は我々の不手際が招いた事態だ。そう言われても仕方がない。それに、愛する者のためならば男はどんな壁でも打ち破れるものだ。この際だ、まだ何か言いたいことがあるなら聞いておこう」
「ならお言葉に甘えさせてもらう。俺が手を貸す上で一つ条件がある。俺の婚約者、エマの護衛だ」
「ほう」
俺の言葉にシュッツは興味深そうに目を細める。すると、カイの後ろで冷や汗を垂らしていたテッカードが口を挟んだ。
「彼の婚約者は現在『眠り姫』の呪いにより昏睡状態に陥っています。後ほど追って詳細を報告しますが、彼が我々に助力してくれるきっかけとなったのが、その婚約者の存在です」
「『眠り姫』……なるほど」
それからしばらく思考したシュッツは、頷く。
「いいだろう。この場にいないということは医療テントの方でルークと共にいるのかな? 近いうち王城が建て直されることになる。その際そちらに移し厳重な警備の元保護すると約束しよう」
「助かる。ありがとう」
とりあえず胸のつっかえが取れた気分だ。王国の騎士が力の限り守護すると確約してくれた以上、カイも気兼ねなく思う存分動ける。エマを救うための第一歩が踏める。
「ああ、そうそう。フリーデくん、ちょっとこっちに来てくれ」
手招きをするシュッツに訝しむものの、彼の表情や気配から敵意や悪意の類のものは感じられないので素直に応じ、彼の前に出る。
すると、シュッツは座りながらカイに右手を向ける。
「新しい仲間に、ささやかながらプレゼントを贈らせてもらうよ」
「――――ッ!」
カイの内側で何か言い表せないような力の奔流が全身を駆け巡る。最初は弱々しく灯っていたようなそれは徐々に燃えたぎる灼熱の炎のようなものへと変わっていき、カイは漲るその力に驚愕していた。
「これからよろしく。歓迎する。カイ・フリーデ」
爽やかな笑顔を浮かべるシュッツ・シルト。
王国騎士団長であるその男に、カイはよろしく、と小さく答えた。
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