頼れないなら頼らせるまで

 消灯された部屋の中、はっと名付けられた少女が、しんだいかせられた姿勢そのままに、ぼんやりとてんじょうながめている。

はっ……ですか」

 ふと、そのひとみうるみ、静かにしずくあふす。

「本当、不思議な人間ですね。そんなところまで、似なくても良いのに」

 何を思い出しているのか、なみだぬぐうこともせずにまぶたせた。

「帰りたい。早く、帰りたいですよ」

 何処どこへ、とも、だれの元へ、とも言わず、はっはそのままちんもくした。

 そんな様子を客間にけられたかんカメラを通して見ていた人物たちがいる。

「うーん、かりとなる言葉も無しっすね」

 耀かぐかえって報告した男性職員は、によく似たおもしをしている。

せいことづかい!」

「えー? 良いじゃないっすか。社長さんだって、とがめないし。姉貴がちょいと、厳しすぎるんっすよ」

 姉に頭をかれてなみだせいは、そのまま耀かぐに視線を向けた。

「社長さん、あのおじょうちゃん、いつまでここに置いとくんで?」

「せめて、歩けるようになるまで、とは思うんだがな。大方の予想通りとはいえ、りょうきょされてしまっては、いつになることやらわからん」

「早く帰してあげないんっすか。あんなに帰りたがってますよ」

「危なっかしすぎてな。送ると言っても、それもきょされた」

 に落ちない表情で、せいは姉に目を向ける。は、かたをすくめた。

「なんだ、お前たち。何か引っかかるのか?」

 姉弟きょうだいの無言のりに、耀かぐが疑問をていすると、二人はさらに視線をわし、やがてが口を開いた。

「帰りたがっているのですから、単にくるまをおあたえになり、そのままげんかんから帰して差し上げれば良いと思いますが」

 せいも続ける。

「なぁんか、ヤな予感がするんすよね、あのおじょうちゃん。あんまり、引き留めておくと、やっかいの種になりそうなふん。あれははっなんてわいらしいもんじゃない。もっと……」

 言葉がちゅうで消えたのは、耀かぐの表情がゆがめられたからだ。

たよることすらあきらめられているうちは、帰せん」

 姉弟きょうだいは顔を見合わせ、それぞれに降参の言葉を返した。

 耀かぐたよすべもない相手に弱いのは、今に始まったことではない。耀かぐ自身が、他人にたよれない半生を送ったがゆえに。

 それをこくふくするべく立ち上げられたりゅうじんけいがいしゃの社員が、今の社長を止める理由は、なかった。

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