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近場の牛丼チェーン店にて、割合ガッツリとした朝食を済ませた後。
リベルテたち四人は無人の市庁舎へと戻っていた。
場所は変哲もない会議室。カーテンを閉めきった暗室で、規模にして学校の教室ほど。四人で使うには広すぎる空間の正面には、画像出力用のスクリーンが準備の最中である。
これらを整えているのはもちろん天津であり、他方でリベルテはポテトチップスをつまみながらふんぞり返っていた。ついでに自販機で買ったコーラも数本用意されている。
「牛丼とうなぎ食った後ってのはね〜、ポテチつまみながらキンキンに冷えたコーラなんだよ!」
ぷしゅっ! と炭酸の音が会議室に伝わる。
紅いショートボブを揺らしながら上機嫌にコーラをあおるリベルテ。彼女の胃袋はまさに底なしであった。男装のスリーピースの黒スーツは見てくれだけではない。衰えのない食欲は男顔負けである。おまけに唯我独尊なフリーダムさも。
「リベルテさん。何のんきにコーラ飲んでんのよ」
「映画館みたいに暗いとテンションあがっちゃってねえ。エレナちゃんも飲みなよ?」
「べつにいらないわよ……。いまから会議でしょ?」
エレナはツインテールの金髪に手を遣りながら、無邪気なリベルテの勧めにため息をつく。
彼女の立場は中央政府からの派遣者で、制服デザインながらに格式ある白ブレザーに身を包んだ監察官。お目付け役らしいふるまいである。
絡みを断られたリベルテは「つれないねえ」などと落ち込みながら、かなえをターゲットに変えた。
「会議っていうほど、かしこまったものじゃないけどねえ。ところでかなえ君、コーラ一本いる?」
「あはは……いただきますぅ」
エレナとは別方向で真面目なかなえである。
この裏世界に迷い込んでからというもの、リベルテは命の恩人。彼女の勧めを断れる道理がない。かなえはおとなしくコーラのボトルを受け取り、ポテトチップスをつまませてもらう。
しかし、かなえはすでに満腹だ。炭酸も得意ではない。そもそもヘビーな朝食をとったばかり。
「先輩、なにダル絡みしてるんです? そもそもさっき朝メシたべたばっかでしょ」
「あれは前菜だよ。では天津指揮官、我々の組織図をだしたまえ」
かなえがあわあわと困っているうちに、天津は機材の準備を終えたようであった。
よろしい、と。リベルテは大企業の重役のごとく偉そうに腕を組む。
長い付き合いの天津は「べつに言われなくても」とぼやきながら、スクリーンに画像を映し出した。
組織図。いわばリベルテ隷下の軍事組織。
東京外縁部の探索と防衛を担当する部隊の、おおまかな編成図であった。
[少女国 外縁自治学区(定数5000)]
・外縁自治総隊司令部
外縁総隊司令官 リベルテ
副司令官 天津 司
・西方総隊(西東京方面)
総隊長 さくさく
副隊長 零華@コーヒー同盟
・北方総隊(所沢、志木方面)
総隊長 Hitomi
副隊長 666
・南方総隊(多摩川ライン)
総隊長 坂東武者
副隊長 十六夜 楓
「なによこれ。ふざけてるのかしら?」
エレナはつっこんだ。
「なんで名簿がSNSのアカウント名みたいなのよ……」
「雰囲気さ。我々は自由を重んじる主義なのだよ。最前線を生き抜く精鋭にして、孤高の〈魔法使い〉としてね」
「中央政府からにらまれた問題児じゃなくて?」
「そうともいうねえ。客観的には」
エレナの指摘は至極真っ当であったが、リベルテは不敵にわらって意に介さなかった。
事実、彼女たちの間の呼び名は(天津以外は)不文律としてSNSのアカウントから取っていた。悪ふざけのような字面になるのも道理だ。
くわえて五〇〇〇名規模の組織にしてはざっくりとしすぎた組織図が、お遊び感に拍車をかけていて……信憑性に欠けるのだが。
「リベルテさんたちって、結構すごいんですね」
かなえはツッコミなど入れずに、リベルテらの組織図を素直に受け取っていた。かなえ自身は裏世界に漂流したての新参者。当然知らないことばかり。一度信じたリベルテらを疑いはしなかった。
「お褒めに預かり光栄だねえ。とはいっても大部分は拠点要員で、実際に矢面に立つのは〈魔法使い〉の少数精鋭。隊長クラスは全員腕利きさ……。そろそろ来たかな」
「来た、っていうのは?」
「かなえ君にエレナ君。きみらとの顔合わせのために召集をかけたからだよ。我々外縁総隊のリーダー格が、いまここにそろい踏みさ。……と、噂をすればせっかち君が一人かな?」
ガタッ、と。リベルテは椅子を弾き飛ばし、途端に立ち上がる。
続いて右手を挙げ、手品師のごとく指を鳴らした——次の瞬間であった。
「――そらそらーっ!」
幼い女の子みたいな、何者かの大声と、一人の小さな影が。
「間に合ったぁ〜っ! 時間どおり、ただいまさんじょーう!」
庁舎の窓ガラスを突き破って「降って」きた。
オレンジ色の粒子で輝く、人影に似たなにか、だ。
会議室に四散するガラス片。巻き起こる突風。橙色の粒子の本流。常識外の現象。かなえにはおどろく猶予すらない。
まるで隕石のように会議室のど真ん中に着地していたのは一人の少女。
両手いっぱいにギチギチな買い物袋? を抱えた紺一色なセーラー服姿の、純真無垢なオレンジボブヘアの少女であった。
「みなさん動くなぁ! 宴の時間ですぅ! 西東京最精鋭の切っ先が、おかしもジュースもたくさん持ってきましたよぉ!?」
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