第二章 外縁総隊。追放されし者。
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第二章 外縁総隊。追放されし者。
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起床からの諸々の支度をおえて、一日のはじまりの清々しい朝!
……といいたいところであったが、ここは裏世界。無人の市庁舎を仮住まいにして一夜を過ごしたが、目が覚めれば元の世界に帰っていたとはならず。否が応にも、かなえは現実を受け入れなければならなかった。
周囲の空はドロッと黒い赤。血だまりそのものだ。おまけに太陽は二つもある。こんな様子で朝昼夜を問わず禍々しいので、精神衛生上よろしくない。
かなえがリベルテらから受けた説明によると、迷い女たる少女たちの日常生活は基本的に屋内で済まされるらしい。
「おはよう、かなえ君! 体調はだいじょうぶかね?」
一人の少女が、正面からかなえに声をかけた。
紅色に染まったショートヘアに、黒色のスリーピーススーツを着こなした、小柄ながらに堂々たる男装女子。リベルテである。
リベルテという少女は、とにかく自信家であった。
どんな状況にも飄々と。
決して揺らがず焦らず。
初対面なのに、そばにいると安心感を覚える。根拠はないのに裏世界でも大丈夫だと思わせてくれる。
当然に心細いかなえは、リベルテの溌剌さには心底感謝していた。
たしかにこの人は無茶な人間だと思う。実際、ろくな説明もなしに「チュートリアル」と称して様々な戦場? に連れ回されて戦わされ。
しかし、それは意地悪なのか。身勝手なのか。
そうではないと、かなえは思う。
昨日はそうでもされなければ動けなかっただろう。
かなえ自身、考えても仕方ないことで膝を抱えて、一人で泣いて、帰れない事実を前に何もできなかったかもしれない……。
「身支度終わったら朝メシといこう」
「朝ごはん、ですか? ……たしかに」
かなえは基本的なことに思い至る。
人間は食べなければ生きていけない。裏世界であろうと不動の現実。昨日の「チュートリアル」なる戦闘に振り回されたせいで忘れていたが、かなえはたしかな空腹感を覚えていた。
「現地調達だよ。昨日のスーパーの寿司みたいにね。僕はね、すぐそこの松野屋で牛塩カルビW定食とうなぎ大皿を食べる予定だよ」
「リベルテさんって、朝からすごい食欲ですね……」
「こんな世界だし、食える時に食っとかないとねえ。それにタダで食べ放題だ。遠慮は損だよ」
元来から食が細い傾向にあるかなえは、リベルテの謎の食欲には圧倒されるばかりであった。
かなえは思う。迷い込んでしまった裏世界という非日常。逃れられないのなら、たしかに前向きにならなければ損だ。
だったら普段はそこそこに済ませる朝ごはんも、ちょっと多めに食べてみたい気も……。小さい牛丼とか……。
「それにチェーン店はいい塩梅なのだよ。調理簡単だしね」
「ほお〜、先輩。飲食の調理が簡単? いつも私に作らせてますけど」
リベルテの後ろには、ポニーテールに結った野暮っための女子。部隊指揮官を務めていた天津であった。
彼女は朝に弱いのか、身支度が終わっても目が半開きであった。あくびもしている。
「餅は餅屋なのだよ。そこにいくと天津は、飲食バイト経験色々じゃん? 僕が働く必要がない」
「はぁ〜。これだから働かない貴族様は……」
まるでやる気のないリベルテに、天津はため息をつく。しかし呆れられても、リベルテはどこ吹く風だ。
「労働? 私は勉学と思索に向き合っていた大学生だったから、古典を読み漁って友人と議論を戦わせるのに忙しかったのだよ。徹夜してね」
嗚呼、いやだねえ。賃金労働はいやだねえ。などと。自由人リベルテは両手をヒラヒラさせながら、天津の追及をとぼけたおしたカタチであった。
「……リベルテさんに、天津さん。なに朝からくだらないことやってんのよ」
「おお」「これはこれは監察官どの」
リベルテや天津とは一線を画する雰囲気の、ツインテールの金髪の少女がいた。
学校の制服と似ていながら、どことなく特別感を醸し出すデザインの白ブレザーを着た監察官。
「監察官どのは、いつみてもお美しい。まさにメインヒロインですなあ」
「監察官どのじゃなくて、エレナよ」
リベルテの様子を見るに、全員集合ということらしい。
かなえの前には、三人の人物が居合わせている。
リベルテ。天津。そしてエレナ。
「それじゃあ、まずは腹ごしらえといこうか」
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