萌えてんじゃねえよ、人類

千日越

破竹はたけさん、破竹さん」

 俺の名前を呼ぶ声がする。ひどく柔らかい声だ。それこそ天使のような。

「破竹さん」

 はたけさん――やはり俺の名前だ。破竹と書いてと読む。

 字面に対して、なんとも勢いの損なわれる読みだと思う。

「破竹さん……」

 呼ぶ声にも勢いがなくなってきた。というか、元気がなくなっていた。


 仕方なく、というわけではないが、まどろみから意識を覚醒させて目を開ける。


 視界には少女の顔があった。それも、会心の笑顔である。

「どうです? 天使に起こされるご気分は?」

「…………………………最悪です」

 右手で少女の首を絞めようとして、それが無意味なことに気付く。


 そうだった、天使は殺せないんだった。それは試してみたから分かっている。


 天使の少女がにこにこ笑っている。

 私に萌えろと笑んでいる。

(ああ……)

 この世には。


 

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