また海に来ていた
船越麻央
第2話 船越麻央
海に来るといつも思う。
静かで穏やかな白い砂浜。
水平線の終わりには、何があると言うのだろう。
祖父と祖母から海についていつも聞かされていた。
わたしの祖父の名はトリトン。祖母の名はピピ。
ついでに言うと父の名はブルートリトン。
わたしには海洋種族トリトン族の血が流れているのだ。
でもわたしは海がきらいである。海が怖い、怖いからだ。
かつてこの海で起きたこと。
トリトン族と宿敵ポセイドン族との血で血を洗う闘争。
祖父の命がけの大冒険。
力を貸してくれた仲間たち、白イルカのルカー、イル、カル、フィン。
そしてポセイドン族を破滅させたオリハルコンの短剣。
それは今、家で大切に保管されている。
もう二度と使うことはないと聞かされてきた、アトランティス文明の遺物。
そのパワーは封印されている。
しかし……再びそれを使わなければならぬのか。
今、世界各地で起きている異常気象。
頻発する火山噴火、海底地震、津波。
極地で減り続ける氷河。
地球温暖化が悪影響を及ぼしているとされる事象が多い。
確かにそれもあるだろう。
でもわたしは知っている。
ついにポセイドン族の逆襲が始まったのだ。
あの時……実はポセイドン族は完全に滅びた訳ではなかった。
わずかに生き残った人々がいたのだ。
祖父も分かっていたようだ。
祖父、祖母に罪悪感があったのだろう。
だからあえて見逃した。
はるかな波の向こうには、彼らの国がある。
彼らは細々と生き延びていて、力を蓄えていたのだ。
ポセイドン族はけっして復讐を忘れたわけではない。今、再び立ち上がろうとして いる。
彼らがわたしたちの環境破壊を看過出来なくなったのも事実だ。
自分たちの身を守るために戦う、ポセイドン族のさだめ。
トリトン族とポセイドン族、平和共存の道はないのだろうか。
なぜわたしがポセイドン族の動向が分かるのか?
実は先日、見てしまったのだ。オリハルコンの短剣の輝きを。
ポセイドン族の怒りの精神に感応していた。
わたしの父ブルートリトン、父も感じている。
海の中で泳ぎながら手を振っているわたしの息子。
彼はまだ自分の能力を知らない。
少し訓練すれば、長時間水中に潜っていられる。トリトン族だから。
広がる海の彼方から、彼を呼ぶ声が聞こえてくるようだ。
旅立ちの時が近づいている。
歴史は繰り返すのか。
いや、わたしは息子を信じたい。
ポセイドン族を説得し、平和共存の道を探る。
希望の星を胸に抱いて、少年は海に旅立つのだ。
また海に来ていた 船越麻央 @funakoshimao
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