治癒師兼神父

 気づけば、考え事に耽っていた。お湯の魔力と言うものは恐ろしいもので、リラックス効果が人をそうさせてしまうのだろう。筋肉の弛緩が、ちょっとだけ前のことを思いださせた。


 のぼせてしまう前に上がろうと、火照った体を湯船から出る。


 明日は教会で、加護の有無を判別できる。きっとそのせいで長風呂してしまったんだろうなとキリを付けて、脱衣所で身体を拭き、着替え、部屋に戻った。


「お風呂ありがとね」


「あ、おかえり。長風呂だったね」


「うん、気持ちよかったからさ」


「ランディお風呂好きなだもんね。また時間あるときに、この間掘り当てた温泉にも行ってみてよ! 周りの建物の完成もあとちょっとだからさ」


「暗にまた遊びに来いって言ってない? まぁ来るけどさ。あーあ夏休みがもっと長かったらなぁ」


 ドットヒッチ領に来るのが一週間遅れたせいで、夏休みもあとわずかになってしまっている。俺も早く帰らねばならない状況で、今回は残念ながら温泉街は見逃さないといけない。誠に遺憾です。


「ふふふ、また今度だね。来年でも冬休みでも楽しみに待ってるよ」


「うん、ありがとう。さて、今日はもう遅いから寝ようか」


 さっきからお付きの従者の方が、ちらちらとこちらに目線で訴えかけてくるんだもの。もうそろそろお時間ですよって。


 案の条イヴは駄々をこねたけれど、付き合いも長く上手い諫め方を心得ていた従者の方が、イヴを担ぐようにして持って行ってしまった。


 それでいいのか貴族と従者。


 俺は彼らの背中を見送って、自身のベッドに潜りこんだ。

 あの海龍の神様は、今もどこかで俺のことを見ているのだろうか。あ、名前だけでも聞いておけばよかったな。


 なんてことを考えていたところまでは覚えている。今日の冒険のせいか、思った以上に疲れていた身体は、すぐに眠りについた。


 ~~~~☆


 眠り眼を擦りながらやってきました、教会に。

 いやぁ、朝の方が忙しそうですね。走ったりしている訳ではないんだけど、祈りを捧げたりしている人を除けば、皆何かしらの仕事をしている。


「皆さんおはようございます。すみませんね、ちょっと朝は慌ただしくて」


「いえいえ、お構いなく。加護の有無の確認に来ました」


 昨夜、俺を治療してくれたお爺さんが俺たちを出迎えてくれた。彼の案内に連れられて、奥の部屋に通されると、そこには誰かは分からないけれど、女神像と椅子だけが部屋の中央にポツンとあった。


 恐らくだけど、正アルテミス教の女神なんだろうなという事は分かる。少しだけ別の神様のお世話になることを負い目に感じてしまうが、大人しく椅子に座る。


 どうか怒らせて丸呑みにされませんように。‥‥‥丸呑みしても体感で豆粒以下ですからね、満足観は無いので勘弁してくださいね。いやホントに。


「さて、加護の有無については、個人情報なので、秘密にしておきたいのなら、一人になることも可能ですが、どうしますか? お連れ様には、ご退出してもらう事も出来ますが‥‥‥」


 今日俺と一緒に来てくれたのは‥‥‥と溜めるほどでもないが、いつものメンツだ。イヴとカガイヤさんに来てもらっている。俺を心配して、と言うよりかは、只の野次馬根性だった気もするが。


 う~む、別にバレたところでまずいことも無いだろうし、いても良いんじゃなかろうか。もしかしたら、今晩の夕食が豪華になるかもしれないしね。ぐふふ。


「いえ、大丈夫です」


「そうですか、では判別していこうと思います。準備はよろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫です。あ!」


「おや? どうかされましたかな?」


「い、いえ。ちょっと気になっただけなんですけど、ある程度の見当がついてたりするのかなって」


 本当は当たり外れがあるのかを聞きたかったのだが、流石に不敬すぎるか。そこを口に出さない常識はあるのですよ、私。


「そうですね、実はまだ確実に絞れている訳ではないのです。海や水に関係する神様も何柱かいますからね。正アルテミス教であれば、大体は搾れるのですが、恥ずかしながら他の教えについては疎くてですね‥‥‥すみません、ご期待に添えずに」


「いえいえ、全然大丈夫ですよ! 結局これから分かるんですもんね」


「はい、この後でしたら確実です」


「ではお願いします」


 俺が椅子に座ると、お爺ちゃんは女神像と俺の間に立ち、目を瞑り、指を組んで祈り始めた。

 俺はどうしたらいいのか分からずに、イヴとカガイヤさんの方を見ると、予想通りにイヴは目を爛々と輝かせているし、カガイヤさんは相も変わらずに無表情でこちらをじっと見ている。


 何も成果を得られずに、それどころか嫌な期待を背負ってしまった気がした。


「敬愛なるアルテミス様へ、敬愛なるアルテミス様へ、我々の祈りよ届き給へ。彼の者に施された御力を我の瞳に写し給へ。その導きは彼の者のために」


 そう言葉を紡いだお爺ちゃんの身体から金色のオーラが揺らめきながら立ち上り、それらがお爺ちゃんの身体全体に纏わりついた。


 そしてゆっくりと瞼を持ち上げたお爺ちゃんの瞳は金色に輝いていた。


 かっこええ。


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読んでいただきありがとうございます。

腰が痛くなりにくいマットを買いました。果たしてどこまで効果があるのか。感想はまちまちなんですよね。ジェルクッション。

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