呼ばれている

“それは仕方ない。すべての生き物が互いに互いを尊重して平和に暮らすなんてことはない。相手は魔物だからね。海にいる魔物は、海の生物と似て非なるものなのだから。彼らはね、生まれて出来た形が、たまたま海で過ごすのに適していただけ。幾星霜もの時間をかけて、遺伝子に刻まれた形ではないんだよ”


 何が言いたいのかはよく分かっていないんだけど、つまりは、魔物はその恩恵の適応外ってことでしょ? 海で危険と言えば魔物と天候だ。それらがどうにもならないのであれば、恩恵って‥‥‥。


“なにか?”


 いえ、何も! 良いですよね~、亀さんや熱帯魚さんと仲良くなったりしてね~。一緒に泳げるなんて、ダイバー冥利に尽きるんじゃないですか? 知らんけど。


 あ、そういえば、ククルカ島で育てている海竜たちがいるじゃないですか。 あの子らの中で、フォルっていう子だったり、別の場所でもフィオナっていう海竜と仲良くなれたんですけど、それは恩恵だったりします? 一応彼らも魔物なんですけど。


“あの子らか。それは別に恩恵を受けている訳じゃないぞ”


 なら、何故に俺はすごく仲良くなれているのでしょうか。他の人には懐くの「な」の字も垣間見えないのですが。やっぱりあのお土産の笛のお陰ですか?


“そうとも言えるね、あの笛はその昔、未だ信仰が強く残っている時からあるからね、そしてあの音色は、親海竜が子供の海竜に聞かせる声に似ているんだ、それを魂の似た波長をもつお前さんが奏でるから、あの子たちも間違えちゃったんだねぇ”


 てことは、他の人が笛を吹いても懐かなかったのは、魂の波長が合ったからということか。


“そうだねぇ、でもそれだけじゃないよ? 嫌なことを毎日してくる人と、のんびりとだけ、だけどいつもそばにいてくれる人。その二人が笛を吹いたとして、どちらに好意を持つと思う? もちろん魂の波長は、お前さんと同じように適合者だとしてね”


 ‥‥‥それは勿論後者でしょ。当たり前じゃないか、だって極論だけど、暴力を振る人と、一緒に昼寝してくれる人、その二人が、急に親だって言いだすようなもんだろ?


“まぁそう言うことだね。つまりはさ、運ももちろんあったんだけど、君が海竜の嫌がる事をしなかったってことだよ”


 なんか、無性に皆に会いたくなってきちゃったよ。少し照れ臭いけどね。


 あ、そうだ。でも音色を聞いても興味を持つだけの子もいたけど?


“それらは、親を知らぬ子だね”


 親を知らないって、あぁそういう事か。卵の状態で連れてこられるんだもんね。そりゃあ親の顔も、声も知らないか。死んでしまうから思ってること言っちゃうけど、なんか残酷だね。


“残酷か、それの半分は私のせいだからね。申し訳なく思っているよ”


 ん? どういうこと?


“不思議に思わないかい? 魔力の濃い場所で魔物が発生する。だというのに、海竜は卵から生まれる。同じ魔物なのにね”


 ‥‥‥言われてみれば。


“それは私が神になってしまったからなのさ。生物としての格が一個上がったんだ。それが良いことなのか悪いことなのか、同種もまた上がったんだよ。魔物から、命を紡ぐことのできる、ただの生物にね”


 あなたが神になると、他の同種族も釣られて一緒にあがったってことですか。‥‥‥良いことのように聞こえるけど、そのせいで親の顔を知らない海竜がいるのか。うーむ、あちらが立てば、こちらが立たず。


 じゃあ、フォルやフィオナは、親の顔を知ってるんだ。でも、今は離れ離れ。そうかぁ‥‥‥。


“だからお主が今は親代わりしているのだろう? 何も不幸ばかりじゃないさ。あの子らにとってもな”


 俺が親か。そういう風に感じなかった訳でもないけど。‥‥‥フィオナの奴、責任感じてたりしないかな。自分のせいでって。俺のせいなのに、ごめんなぁ。


 絶対自分のせいだって思いこむタイプだもん。あぁ、死にたくねぇなぁ。フィオナの変化についても気になるし。あぁ、あの子らを残して死にたくないよ。


 少し息をするのが難しい。体が無いからそんなことも無いのだろうけれど、涙が零れている気がした。


“‥‥‥”


 ごめん、ごめん。ちょっと重たい雰囲気になっちゃったね。やだね、死ぬときは楽しく軽やかにって思ってたんだけどね。


 というか、結構時間たったけど、まだ死なないん? そろそろ吸収される覚悟も‥‥‥出来てはいないけどね。今でも皆に会いたいし。


“‥‥‥お前さんや、今私の姿はどれくらい見えている?”


 ん? 姿? えっとですね、なんかぼやっとしていますね。あれ? なんか見えづらくなってる? なんで?


“‥‥‥ふふふ、あっはっはっは! 面白いよ。お前さんもあの子たちもね。お前さんは本当に愛されてるね”


 えっとぉ。


“あの子たちが必死でお前さんの魂を探してるよ。‥‥‥我が子たちの本気の頼みだ、無下にも出来ないしね。いいだろうよ、お前さん、生き返りなよ”


 生き返れるの!?


“あの子たちに感謝しなよ”


 だんだんと意識が薄れていく。声も聞こえづらくなってきた。だったらもっといろんなこと聞いとけばよかったと後悔に至るも、それでも、また皆に生きてあえる事が嬉しくてたまらない。


 次に本当に死ぬ、そのときまで、今の生を精一杯過ごしていこう。皆で、楽しく。後悔の無いように。


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 読んでいただきありがとうございます。

 一端過去回想はここまで、風呂に入ってるときって何か考えちゃうよね。

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