十話
先だっての会合から数ヵ月が経った。季節は夏に差し掛かり、ヴィルヘルムを
「さしづめ
「――皮でくるんだ食べ物がお好きでいらっしゃるのね」
白い肌掛けから顔だけを出して
「今日は『出てらっしゃいー!』ってしないんだ?」
「そんなずっと前のことは今すぐ忘れてくださいまし!」
「忘れろって言う方がよく覚えてるんじゃ仕方ないよね?」
「――これ以上おっしゃるなら、今日は帰らせていただきます」
ヴィルヘルムのからかいに、いよいよ
「ごめん、頼むから帰らないで」
む、と口を引き結んだ淑女は上目使いに男を
彼女はそのまま
「え、なんだって?」
「――外で待っておりますから、早くご準備なさいまし!」
叫ぶようにそう言って、ヴィルヘルムと戸口との間にできたわずかな隙間から器用に抜け出すと、ヴィオラは待たせている馬車に駆けていってしまった。
男は困ったように頬を掻く。――相変わらず、どうも自分は余計なことを言ってしまう
それにしても、ヴィオラの反応はアリスのそれとは違っていた。アリスは気に
同じ女性でも色々だな、とヴィルヘルムは興味深く思うのであった。
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