第2話 説明

 1-2. 説明


 秋良は話を始める。

「『三五十高校漏電事故』三年前、三五十高校で発生した大規模な電気事故。被害者は生徒322名、原因は教員が秘密裏に実行していた『Be Order』計画中の事故。貴方含む生徒や世間にはそう知らされています。しかし、あれは事故ではありませんでした。あの電気事故こそが、だったのです。その書類に書かれていることはすべて、三五十高校の地下で発見された情報です。」

 秋良はいくつかグラフが掲載された書類を見せるが、谷田にはこれが何を意味するのか理解できなかった。特に、やたらと出現する見慣れない単語が目についた。

「えー…っと?まず『エルペンタ定数』…っていうのは…?」

「…谷田さんは、「人間は脳を2%しか使っていない」ってことをご存じですか?」

「え?あーーーー………はい」

「…その『エルペンタ定数』はある電力の値です。この値の電流を人の脳に流すと未使用部分がされ、『特異神経』という四次元的空間にある未知の器官、神経に接続されると言われています…が、信憑性は無く、そもそもエルペンタ定数が特定されていない以上確かめようがないので、都市伝説のようなものだとされていました。ですが、どうやら三五十高校か、或いは更にその裏にある組織はそれを特定してしまいました。そして、彼らはこれを革命に使用しようと考えたのが「Be Order」計画なのです。三五十高校は革命を起こすような強く新しい精神を持つ子供を集め、特異神経に接続させて、新たな秩序…つまり!「Order」にしようと」

 このオカルトじみた話にテンションが上がっているのか秋良の声が大きくなってきた所で谷田が話を遮る。

「ちょ、ちょっと待ってもらっていいですか?『特異神経』ってそもそもなんですか?その…「四次元的空間にある未知の神経」は革命とやらに使われるような代物なんですか?」

「…あー、谷田さんって漫画とか読んだことないんですか?いわゆる特殊能力ってやつですよ。伝説の果物とか念とか精神力とか、そういう超常現象を発生させる異次元の力を操ることができるようになるものです。人によってされる特異神経が異なるようでして、これだ!と断言はできないんですが…。あ、丁度良い例がありますね。」

 秋良は新しい紙を差し出す。谷田にとっては今まで渡されたどの書類よりも見やすく、内容が理解しやすい書類だった。

「『特神通称: Doggy Roadドギー ロード 使用者: 沼田ツカム』…。ゲームかなにかの設定ですか?」

「まあまあ、ここら辺はあまり気にしないでください。重要なのは『使用効果』ですよ。」

「はあ、えーと…『1, 爪先から地面を介して『道』を伸ばす。2, 『道』に触れた生物は、鋭い痛みを覚えながら』…。なんですか、これ。」

「先程の映像からもお分かりだと思いますが、貴方のお知り合い、沼田ツカムはまさにとなって革命を起こそうとしています。」

「…さっきから思ってたんですが…。もっとこう、ちゃんとした証拠はないんですか?というかそもそも、私が沼田の知り合いであることはどこから判明したんですか?」

 谷田は突然やってきた奇妙な肩書の来訪者と、来訪者が持参した奇妙な書類を信用しきれていなかった。最初に見せられた動画も、フェイクではないかと疑問視していた。

「…あの、今から見せるものは誰にも内緒ですよ。」

 秋良はおもむろに「極秘」と書かれた封筒から、1枚の写真と便箋を取り出した。谷田はその写真を見てギョッとする。そこには先程の映像にもいた2があった。それはにらみつけるような表情の沼田の両手にぶら下がっている。言葉が出ない谷田に代わって秋良は口を開く。

「これは、あの映像の次の日に送られてきた写真です。その2つの生首は、あの映像に映っていた2人の死体の一部です。この写真は、『Pearl』という組織から送られてきました。この手紙と共に。」

 秋良は、便箋を手渡す。谷田が受け取ると、それは普通の紙よりも分厚く手触りの良い、高級な便箋であることが分かる。そこには見覚えのある字で、「要求」と書かれていた。そしてその下には一文。

「朝倉ハナ、谷田ショウジ、三井トモコ、和田ジン、以上4名を連れて来い。 沼田」

 はっきりと自分の名前が載っていた。さらに、他3名の名前にも見覚えがある。まさしく他3名はオカルト研究部の部員であり、谷田、沼田と共に様々な場所を散策した仲間であった。

「こ、これ、沼田が…?」

「本来ならば、コピーしたものをお渡しすべきなのでしょうが、残念ながらその紙は特殊な材質で出来ていて、機械が読み取ることが不可能でした。ですのでこれは現物です。」

「じゃあ、この3人は」

「はい、そのままの文章です。何か心当たりが?」

 半信半疑だった谷田は、その余りに馴染みのある文字列と、「朝倉」「三井」「和田」、そして「沼田」という苗字から、それを受け入れざるを得なかった。

「オカルト研究部です。オカルト研究部なんです!この、えっと…全部が!」

「…つまり、同じ部活動をしていたと?すみません、三五十高校の、特に生徒に関する情報は警察の介入後に消滅しているんです。」

「はい、断言できます。あれは正しく沼田です、沼田ツカムです。」

「では、信じていただけたのですね。」

 秋良はほっと一息つくとあらかたの書類を片付け、気づけば谷田の目の前には、最初に渡された書類だけが残った。

「貴方には、お願いがございます。我々と共に彼を、沼田ツカムを止めてくれませんか?」

 谷田は熟考する。今の所分かっているのは、沼田が二人の人物を殺害しながら暴走していることだけであり、更にそれはあくまで沼田に対抗する組織が持ってきた情報である。もし、この組織自体が嘘をついているなら恐らく社会的な悪はこの、今目の前にいる秋良カナエを名乗る女性とその組織だが、この情報が本物なら今まさに沼田は、沼田ツカムという一人の友人が暴走していることになる。結局谷田は決断することが出来なかったが、その代わりある提案をした。

「私を、沼田ツカムの所へ連れて行ってください。」

「ええ!?いや、ですからそうすると沼田の要求を…」

「私はまだ貴方達自体を信用しきれていません。今の所私が信用している情報は貴方達の言う「沼田」が私の知る沼田ツカムであることだけです。まずは、沼田の話が聞きたい。」

 秋良は暫く唸って悩んだのち、苦々しい顔をしながら答えた。

「…………まあ、分かりました。一度上司に確認してみます…。」

 そうして、秋良カナエは自身の荷物をまとめて部屋を出る。谷田はそれを見送った後、沼田に何があったのか知る為に様々なSNSアカウントを確認したが、更新は今年の頭で止まっている。それから2日後に秋良の再びの来訪が起こるまで、谷田は悩みながら過ごすことになる。

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