Sand
たたり水
Chapter1 谷底の雛
第1話 谷田ショウジ
20XX年10月12日火曜日、神奈川県
「Be Order」、首謀者は三五十高校18代目校長の
それから三年後…。
Chapter1 谷底の雛
Ch1-1 谷田ショウジ
当時三五十高校二年だった谷田はあるアパートの一室で腐らせていた。転校先での学校生活が上手くいかず不登校になり、最終的に大学受験に失敗。現在はフリーターをやっている。最近の趣味はYouTubeの動画視聴であり、人工音声を用いた解説動画を見ながらスーパーで安く売られていた賞味期限切れのスナック菓子を貪っていた。
「チッ、んだよこの動画。ソース無ぇのかよ。」
収入源はたまにやる短期バイトがほとんどでその上休日は一人でいる時間の方が圧倒的に長く、その為だれかと長らく会話をしていない。インターネットは利用できる環境だが、炎上や個人情報流出が怖くて「
「…あ、これ辛ぇ。」
スマホを見ながら机の上を探るが、手の甲がコップに辺り座っていない座布団に零れる。
「ん?」
「…はあ。」
谷田は45分ぶりに立ち上がり、使わないキッチンに無造作に置かれたタオルを取ろうとして。
ピンポーン
「…!」
チャイムが鳴る。長らく来客はいなかった為に久しぶりに聞いたそれは谷田の身体を硬直させた。チャイムが鳴り終わるまでの間、谷田は自身の頭を凄まじく回転させて「非」を探した。何かの払い忘れか、それとも隣人からの苦情か、それとも宗教勧誘か。男は恐る恐るドアに向けて足を一歩踏み出した。小さな床の軋みに怯えながらもう一歩踏み出そうとした時、ドアの向こうから女性の声が聞こえた。
「すみませーん!谷田さーん?いませんかー?」
あまり怒気は感じられず、事務的なそれでも無いような気がする。とすると宗教勧誘だろうか、しかしわざわざ名前を呼ぶだろうか。とにかく谷田は何かとてもめんどくさそうな気配を感じたので、居留守をすることにした。今度は自ら身体を硬直させ、一切の音を立てないように努める。その為、谷田はドアの向こうの独り言をよく聞くことが出来た。
「…いいや。」
谷田がほっとしたその時、
カチカチ…ガチャ
ドアが開いた。
扉の向こうから強い光が入り、思わず目を細める。が、その若い女性の陰が自分を目視したことは分かった。その顔は微笑んでいた。
「あ、良かった。いますね。」
「は、え…。はぁ?」
谷田はタオルを持つ手に力を込めながら一歩後退る。そして、いつもよりも大きな声でその女性に語りかける。
「だ、な、どうやって開けたんですか!?」
「大家さんから合鍵貰いました。」
女性はけろっとして答える。
「な、なんで…そもそも誰なんですか!」
「ああ、そういやまだでしたね!」
その女性はスーツの胸ポケットから見たこともないカードを取り出し、谷田に見せる。
「私はとくち…失礼、
「え、と、特殊犯罪対…?の人がなんで来たんですか?」
「あ、えっと、沼田…ツカム?についてお聞きしたくて。」
谷田は沼田ツカムという名前を聞いて、一人の友人を思い出した。
彼は谷田が三五十高校一年の頃に出会った後ろに結んだ髪型が特徴的で、誰とでも仲良く会話をしていたが、何故か自分と一緒にいることが多かった。楽観的ではあるが慎重な男でもあり、「テスト勉強マジでやってないわ」と言って一番勉強してるような奴だった。他の友人に誘われて谷田と同じオカルト研究部に入部したが、沼田を誘った奴が退部した後もオカルト研究部に残り続け、共に様々な場所を調査した。当人はあまりオカルトに詳しくは無かったが、好奇心は中々に強かった。例の事故の後は、通学距離の関係から谷田とは他の高校に転校し、それ以降は全く音沙汰がなかったわけではないが、元旦の「あけおめ」以外には一切会話をしておらず、どこで今、何をしているのか全く知らなかった。
谷田は秋良に尋ねた。
「その、沼田がどうしたんですか?」
「ああ!良かった、ちゃんと知り合いですよね。」
秋良は革靴を脱ぎ、ずかずかと部屋に上がると、勝手に座布団に座り…。
「…あ、そこ多分濡れてる…。」
「ひっ…!…先に言ってください!」
急いで立ち上がって座布団を横にずらすと、今度は絨毯に直接座ってから机に書類を広げ始めた。
谷田は玄関のカギを掛け、先程まで座っていた場所に座る。良く分からないカードを見せながら良く分からない所属先の名前を言っている秋良を怪しく思いはしたが、同時に非日常的で少しだけワクワクしていた。谷田は表には出せまいとにやつきを我慢していると、秋良が書類の中から一枚だけ谷田に差し出した。契約書のようなフォーマットだ。
「簡単に事情を説明したいと思いますね。…とはいっても、受け入れてもらえないかもしれないので、先にこの映像を見てもらってもいいですか?」
女性はタブレットを取り出し、谷田にある映像を見せる。ややノイズとブレが見られるスマホで撮影された街中の映像のようだが、街に見覚えは無い。街の様子は酷く、後ろには倒壊したビルが並び、それを砂煙が隠している。割れた道路の真ん中に人影が見える。高身長でスタイルの良い男性だが、その髪型で谷田はそれが沼田であることに気が付いた。沼田はボロボロのシャツを着ており、白いズボンは砂埃で黄ばんでいたが、それを気にするような素振りは無い。画面の両脇から武装した警官らしき人物が二人前に出る。左手には盾を構え、右手には拳銃があった。左の人物が何かを叫ぶと、盾を構えながら沼田にゆっくりと近づく。右の人物がそれを止めようと左手でその肩を掴もうとして、その瞬間、沼田はその右の人物に目をやった。その人物は突然しゃがみ込むと、そのまま溶けた。残された人物は、それに気づいて後ろを向くと、同じように突然しゃがみ込みながら拳銃を捨てて左足を抑え始めた。ヘルメット越しに見えるその表情は苦悶に満ちており、歯を食いしばっていたが、数秒後カメラの外にそのまま倒れ伏し、その表情は見えなくなった。映像はそこで終わっている。
秋良は口を開く。
「あ、この映像の奥に見える人物が沼田なんですけど…、貴方の知り合いで間違いないですね?」
「……髪型が、同じで…後、顔も面影がありました。」
「それじゃあ今、何が起きているのかお話しますね。これを見ながらお聞きください。」
最初に差し出された紙の上に別の紙を重ねた。
「『三五十高校漏電事故に関する報告書』…。」
「初めに、貴方も経験したあの事故…事件についてお話しますね。」
女性はループして初めから再生され始めた動画を止め、タブレットをしまった。
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