Episode 006 「双子姉妹の踊り」
宿場町デザダルの傭兵、ベンジャミン。
ミルキオラとメルティオラがその男に買われてから、一週間が経った。
日焼けした浅黒い肌。
短く刈り上げられた金髪。
背は高くて、恐らくは190センチ以上。
男らしい逞しい体つきで、腕の立つ職業戦士。
顔はあまり表情豊かではなく、感情は自身の中で飲み込んでから、平坦に処理して外へ吐き出すような人。
口調や言葉は俗なので、周囲には溶け込んでいるが、どこかで一歩距離を置いているような、奇妙な寂しさも纏っている。
最初は姉妹の色香に惑い、傲りから二人を買った愚かな荒くれ者かと思った。
奴隷商人であるウィップマンからは、人となりも悪くはないし、デザダルじゃかなり信頼されている傭兵だとは聞かされていたが。
扇情的な踊り子の格好に、大して考えもせず契約を即決した姿を見て、唖然としなかったといえば嘘になる。
もちろん、ミルキオラとメルティオラには、『聖娼』の呪い。
由縁の知れない正体不明の女神様から祝福が授けられているから、それくらいの餌を用意しないと、ロクな買い手もつかないとは理解していた。
でも、そんな小細工をしたところで、どうせ誰も双子を受け入れてなどくれない。
富と繁栄と豊穣が約束された聖娼ならまだしも、手を出せば何が降りかかるか分からない呪われた女。
ただでさえ何もしていなくとも怪物などを引き寄せるのに、わざわざ金を払って命を落とすかもしれない不運を招き入れるとか、マトモな分別があれば誰だって首を横に振る。
清廉潔白を美徳とし、邪悪な魔物と千年単位で戦ってきた歴史を持つ
南方大陸では有数の氏族で、そんな一族からも見捨てられた二人は、何処に行っても疎んじられて厄介者扱い。
家の庇護を失って、頼る者もいなくなれば、最終的に行き着くのは家無しとして野垂れ死ぬさだめか、奴隷にでもなる最後の手段しかない。
遠く遠く、長い旅をして各地の奴隷商からまた別の奴隷商の元へ。
幸い、ミルキオラもメルティオラも見目には優れていたから、客を引き込む『看板』として働いて。
海と砂漠を越えて西方大陸にまで辿り着き、ウィップマンのところへ流れ着いた。
ウィップマンは変なニンゲンではあったが、奴隷商人なりのポリシーがあるらしく。
自分の店で扱う奴隷には、必ず良い主人を見つけてやるのが、生き甲斐らしい。
ミルキオラとメルティオラも、ウィップマンに拾われる前にはきちんと事情を話していたのだが、それでも売ってみせると豪語された。
どうせ口だけだろうと、期待はしていなかったが……
──問題ない。支払いはいくらになる?
ベンジャミンは二人の予想を超えた。
一緒に暮らし始めてからも、それは続いていて。
傲り高い荒くれ者の印象は、綺麗に消え去っている。
傭兵と聞くと、粗野で野蛮で不潔な野盗紛いのイメージが付き物だが、ベンジャミンはどうも元々は貴族の出だったらしく、ところどころに品格の良さが滲んでいる。
礼儀作法、身なりの清潔、時や場所を弁えた言葉遣い。
物書きも出来るし算術も出来て、お金の管理も細かくやっている。
クランハウスには風呂や氷室もあって、小さいながらも書庫室さえあった。
ひとりで生活していたから、全ての部屋の管理が行き届いていたワケではなかったみたいだけれども。
床に転がる酒瓶や、脱ぎ散らかされた臭う衣服。
腐った食料にネズミや地虫。
覚悟していた悲しみはまったく現れず、不当な暴力や暴言も無し。
それどころか、一緒に食事を取ってお茶さえ飲む許しをくれて。
夕飯時になれば、必ず穏やかに星空を見上げる。
その時間が、ミルキオラもメルティオラも、次第に心地よく感じられて。
「ご主人様、まだかな……」
「今日も無事に、帰って来てくれるといいけれど……」
ベンジャミンが仕事で外に出ている昼間。
家の掃除や洗濯などの雑用を片付けつつ、申し付けられた冬越えのための準備。
薪の買い出しや、家の補修のための材料集めをするかたわら、二人はベンジャミンに早く会いたいと思うようになっていた。
強くて、優しくて、賢くて、穏やかで、町の人からも頼りにされる、腕の立つ男の人。
歳は一回りくらい離れていそうだ。
でも、もし求められたら?
奉仕奴隷として買われた二人には、もちろん拒否する権利なんて無い。
けれど、ベンジャミンが二人に無理強いを迫る姿は、たった一週間程度ともに暮らしただけでも想像はできなくて。
呪われているがゆえに、やはり軽率に手出しされる兆しも今のところは無かったが、
──問題ない。神聖娼婦の祝福は、関係を持つコトで初めて周りに何かをもたらす。要は、一線さえ守っていればいいだけの話だ。
「っ」
「ン」
ウィップマンの店で聞いたセリフ。
目の前で堂々と断言された仄めかし。
最後の一線さえ守られていれば、他は何をしても構わないはず。
そんな男の欲望もまた、ベンジャミンの胸には潜んでいるはずで。
求められたら、寝台に誘われたら。
ミルキオラとメルティオラは、想像しただけで頬が熱くなる。
伝承によると、神聖娼婦の祝福は〝接吻〟と〝交合〟によって、聖婚関係を結んだと判断されるらしい。
つまり、それ以外の
今さら〝好きになった男の人〟と、そういう関係になりたいだとか、希望を持っているワケではないが。
しかし、ベンジャミンは二人を、どう思っているのだろう?
ただの奴隷?
それとも、ミルキオラとメルティオラを呪いごと受け入れ、
「ミルキィお姉様……」
「そうね、メルティ……」
天涯孤独。
かよわい少女。
ゆくあてもなく、誰からも愛されないと諦めていた二人を、傍に置いて、あまつさえ穏やかな期待まで抱かせてくれるなら。
「試してみましょう……」
「うん……」
ベンジャミンの本性。
風変わりな傭兵の腹の底。
色香に惑って獣の欲を隠す偽りの仮面か。
あるいは、真に心を預けるに足る〝ご主人様〟なのか。
踊り子の衣装は渡されている。
その夜、姉妹は再び薄布と金細工を身につけ、就寝前のベンジャミンの寝室に向かった。
手を出されてもいい。
出されたら、きっと断れない。
でも、できるなら、誘いに乗らず紳士に窘めてくれる優しさも見たくて。
化けの皮を剥がすつもりで、勇気に身を預けた。
────────────
────────
────
──
寝室の扉が開けられた。
寝たフリをしつつ、枕の下に隠してあるナイフを密かに握っていると、侵入者は奴隷の少女たちだった。
「ご主人様、ご主人様」
「ご主人様? ご主人様?」
「……ん。なんだ、どうかしたか?」
呼び掛けられたため上体を起こし、目蓋を開ける。
すると、ミルキオラとメルティオラは、ほとんど裸だった。
ウィップマンの店で見た踊り子の装束を着ていて、視界の暴力としか言えない、いつもの爆乳を揺らしている。
燭台の明かりが部屋の中を薄く照らし、影が天井を登った。
俺は起き上がり、ひとまず天井の暖気灯に火を点ける。
夜は寒いから、こんな薄着だと風邪を引く可能性があった。
「それで?」
「踊りを」
「楽しんでいただこうと思いまして」
「なるほど」
ハトホリアの少女たちは、どうやら何らかの意図で、俺を誘おうとしているらしい。
真意がよく分からないが、夜更けに奴隷が──奉仕奴隷が、男主人の寝室に薄着で訪問したのだ。
とりあえず、襲撃ではないと判断した。
「踊り、か。俺はここで、見てればいいのか?」
「はい」
「そこで、お寛ぎになりながら」
「是非、ご堪能ください……」
ベッドに戻り、壁に背中を預けた。
すると、
「「──では」」
姉妹はまず、ベンジャミンの寝台に上がった。
キングサイズのベッドは予想以上に広く、ステージとして使うのに何も問題なかったからだろう。
双子は嫣然と微笑み、おもむろに舞を開始した。
「まずは目で……私たちをお愉しみください」
ミルキオラはベンジャミンの目の前で、大きく股を開いて膝を曲げると、両腕を頭の後ろで交差させる。
女が男の前で、自分の何もかもを差し出す無防備な体勢。
どたぷんっ、と非常に質量感のある胸が強調され、長い薄布が両足の間で頼りなく垂れる。
それを、背後から今度はメルティオラが、抱きつくように姉に密着し、妖しい手つきで、まさぐるように姉の身体をなぞった。
足の先、腕の先、南国特有の振り付けに合わせて、メルティオラは徐々にミルキオラの胸の先端にまで触れていく。
「っ、ん、ぅ」
声を漏らし、あたかも昂りを抑え切れないといった呼吸の乱れ。
メルティオラの手は、姉の乳房を揉みしだくような仕草を繰り返し、ミルキオラもまたそれに合わせて、波のようにカラダを前後させる。
「ぁんっ! あっ…………!」
艶のある吐息は演技か本物か。
やがて、メルティオラは口を使い、ミルキオラの肩にかかる金細工の細糸──胸当ての紐を、ブチッと噛みちぎった。
はらり。
ベッドの上に、胸当てが転がる。
ミルキオラの胸には、もはやヒラヒラと揺れる前掛けのような薄布しか、掛かっていない。
風が吹き、否……本人が少し身動きするだけでも、布は大事な先端部分を覗かせてしまうだろう。
けれど、妹の手はまだ止まらない。
今度は下乳、腹部、鼠径部から股間へと舐めるように手を這わせ、こちらも前掛けとして秘所を隠している薄布の下、真に姉の秘部を守っていた下着をするりと抜き取ってしまった。
紐も同然の股布が、先ほど転がった胸当てに、重なるように床へ落ちる。
ミルキオラのカラダを守る薄いヴェールは、瞬く間に防御力を下げた。
もはや、ただ布を垂らしているだけの、はしたない格好──
メルティオラは離れ、ミルキオラが羞恥に震える中、カラダを大胆に動かしていくのを見た。
腰を左右に揺らし、股の前掛けが際どくひらめき、どっしりたっぷたっぷ。
弾む爆乳は、男を誘う腰振り運動と合わさって、寝室の空気をひどく淫靡に染めていった。
(……ああっ、見てる! 私、じっくり見られちゃってる!)
ミルキオラは知らず、ゾクリとした感覚に背筋を震わせる。
その間も、観客の視線は途切れることなく双子のカラダへ注がれ、ギチギチと筋肉のしなる音がした。
浮かび上がる血管の怒張。
だが、まだ終わりではない。
この場にはもうひとり、ミルキオラにも劣らぬ美姫の存在がある。
(次はあなたの番)
(うんっ)
アイコンタクトを交わし、姉妹は選手交代。
危うい格好のまま、ミルキオラがクルリとターンをし、背後にいたメルティオラがここぞとばかりに前へ踊り出る。
その瞬間、わずか一秒にも満たない回転に、姉は妹の衣装をバッ! と取り払った。
結果、姉がヒラヒラユラユラと薄いヴェールだけの格好になったのに比して、妹はその逆。
表面を覆うすべての布を取り払い、極わずかな面積しか持たぬ胸当て、股布のみのドスケベ衣装に様変わり。
そして、メルティオラは姉に勝るとも劣らない爆乳を左腕で抱き掬え、むにっ、と持ち上げた名峰の谷間から、男を見下ろして妖艶な微笑を零すと、手品のようにポールを取り出す。
というか、まんま手品だった。
いったいどうやったのかは分からないが、ポールはそのままベッド上に固定され、キングサイズのそれをいよいよ本物のステージに変えてしまう。
メルティオラはポールを、ぐにゅりと自身の胸の間に挟み込んだ。
カラダを上下に擦り付け、しごくように上下運動を始める。
何かを想像させずにはいられないあからさまな擬似仕草だが、それを咎める者は誰もいなかった。
上へ下へ。
ポールを挟んだ爆乳は、綺麗に乳と乳の間で棒を圧迫し、素晴らしい圧力と弾力をを見る者に伝える。
胸当ての先端には、飾りとして付けられた金の鎖紐が、チロチロと揺れて鳴っていた。
「ン……ァ……くふっ……」
呆気に取られるどころではない。
見目麗しい美少女奴隷のエッチな姿と悶え声に、就寝前の微睡みなどとっくに掻き消されていた。
然れど、
「──もういいよ」
「「ッ」」
「今日はもう休んでくれ」
「ご、ご主人様っ?」
「な、何か、気に障りましたでしょうか……!」
「いいや。でも、明日の朝また話をしよう」
俺は二人を下がらせ、深く呼吸をする。
「────ハァ」
パンツが大変なことになっちゃったよ。
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