学校の怪談

 現在40代の春菜さんがまだ20代の頃、教師になる前の話である。

 教員採用試験を1ヶ月後に控えた彼女は特別に休日の学校を開けてもらって、試験科目の一つである体育の練習をしていた。

  

 知り合いの現役教師に手伝ってもらいながらの練習は朝から夕方まで続いた。

  

 約9時間の練習を終え、マットや跳び箱などの器具を片付けていると校舎内からピアノの音が聞こえてきた。

 他にも試験の準備をしている人がいるのだろうか、そう思いながら学校を後にした。

  

  

 その日の彼女の記憶は帰宅したところで終わっている。

 意識を取り戻したのは丸一日経った後だった。


  

 家族の話によると、帰ってきた彼女は高熱を出して玄関に倒れていたそうだ。

 その日は体調が悪かったというわけではなくいまだに高熱の原因は分からない。

  

 後日、春菜さんが聞いた話だとその日学校にいたのは二人だけで、更に一緒にいた先生にはピアノの音は聞こえていなかったと言う。

 結局何も分からずじまいであったが、その年春菜さんは無事に採用試験に合格した。今では教師歴18年のベテラン先生だ。


「今でも休日の学校はちょっと怖いで。ピアノの音が聞こえたらまた熱出しそうやし」

 春菜さんは懐かしい、大切な思い出を語るような顔をしていた。


「まるで学校の怪談やな。トイレには花子さんもおるし」


 嬉しそうに笑った春菜さんは、次にこんな話をしてくれた。


 普段授業のない時間は書類仕事をしているのだが、その日はたまたま書類がなく、校舎内のごみ拾いをしていたそうだ。

 ついでに生徒が使うトイレを点検したところ、女子トイレの一番手前にある個室のトイレットペーパーが切れかかっていたので、新しい物と取り替えた。

 奥に進み他の個室も点検したが取り替える必要はなかったので、春菜さんはそのまま出口へと引き返した。


 すると、一番手前の個室を通り過ぎた時、サーっと水の流れる音がした。


 中を覗くと本当に水が流れている。誰もトイレには来ていないはずだ。授業中なのでそもそも廊下に出ている生徒はいない。

 おかしいと思いつつも個室を離れようとした春菜さんはドキっとした。


 つい先ほど取り替えたはずのトイレットペーパーがすでに残り少なくなっていたのだ。



「そのトイレだけ時々そういうことがあんねん。ま、学校には色んなのがおるわな」


 ”何でもない”といった風な春菜さんの言葉を聞いて、不思議な現象が日常の一部になるという感覚を羨ましく思った。

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