特別任務
佐伯さんが30年ほど前に勤務していた学校には、奇妙なルールがあった。
それは、毎朝一番早く学校に行ってコップ一杯の水を供えること。
雨の日も雪の日も土曜日も日曜日も、決して欠かすことはできない。
もちろん夏休みも冬休みも。
彼女は毎日学校へ行き水を供えていたそうだ。
それは校長だけの特別な仕事だったらしく、他の教員や生徒には秘密にしていたため代役を立てることは出来なかった。その学校にいた数年間は旅行にも行けなかったという。
「もし、お供えをさぼったらどうなるんですか?」
「……もう時効みたいなもんやし、学校の名前くらいはええか」
質問には答えてくれなかったが、こっそりと教えてくれた学校の名前に聞き覚えがあった。
「私が辞めるときに次の人にも言うてんけどよぉ、ちゃんとしやんかったらしいわ」
そういえばいつぞやの台風で高波の被害を受けたのはその学校ではなかったか。
校舎の目の前にある堤防が決壊したせいで、被害はかなり大きかったと記憶している。
「餓鬼さんは怒らせたらあかんねんで」
私の考えていることが分かったのだろうか、佐伯さんは諭すような口調でそう言った。
目の前に置かれたコップの中で水面がわずかに揺れる。そこに群がり水を吸う餓鬼の姿を少し、想像してしまった。
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