第十五話 「無二」
その後、僕は彩夢と日が落ちるまでずっと話していた。彩夢は拒むことなく、昨日と同じように歓迎してくれた。少しは彩夢の励みになっていると、思えた気がして嬉しかった。
そこで、明日退院することも伝えた、それとこれからは毎日行けないことも伝えた。すると彩夢は残念そうにしながらも、受け入れてくれた。
そしていつでも話せるように連絡先を交換した。互いにスタンプを送り合い、一日が終わった。
部屋に戻るなり、僕は夢の中へ入るのだった。
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目を開けると、また辺り一面真っ白の世界に立っていた。昨日の嫌な記憶が蘇ってくる。だがこれも仕方がないことだ。夢の中なんだから何もしないなんて選択肢はない、少しでもこの世界を楽しまなければ、と足を進める。
しばらく歩いているが、あの黒い文字は現れず、それどころか何も起こらなかった。
だが、確実に何か起きるだろうと僕は確信していた。なぜならこの夢はいつも「突然」だからだ。僕の意識が周りに向いていない時に突然何か起こる、そんな気がしたのだ。
試しに意識を他のことで埋めてしまおうと思った。そうすればどこか意識外で何かが起こる気がするからだ。早速僕は、作曲のことで頭を埋めた。
えーっとこれがセブンスだと
「ねぇ......。」
僕が見上げるとそこには白いワンピースを着た背の低い女の子がいた。銀色の髪は長く、綺麗だった。
「ここで何してるの?」
彼女は座っている僕を見おろしながらそう言った。声は彩夢と似ている、透き通った声だったが、彩夢の声ではない。
「何も。することもないからちょっと考え事してただけ。...ところで、君は誰?」
僕は冷静にそう答え、逆に彼女に問いかけてみた。
「分からない。」
「......え?」
「私が誰なのかも、私がここにいる理由も、私が存在している理由も、何も分からない。」
「じゃあ、名前もないの?」
「名前、ない。」
彼女は首をかしげた。不思議な子だ。だが僕は不思議と面白く感じていた。
「うーん......。」
僕は彼女の名前を考えていた。
「......?」
彼女は僕が何を考えているのか分からない様子だったが、気にせず考えを巡らせる。
「ユニィ...。」
なんとなく浮かんだ言葉が案外しっくりきた。
「............?」
彼女はまだ理解できていないようだった。
「君の名前、ユニィはどう?」
「名前、何でもいい、好きに呼んで。」
彼女は喜ばなかった。期待していたわけじゃないが、昔の僕を見ているようだった。
「分かった。じゃあユニィ、ちょっと歩いてみない?」
僕はそう言いながら立ち上がった。
「ここ、何もなかった。歩く必要、ない。」
否定された。だが僕は負けずと言葉を返す。
「でもこの世界がどこまであるかなんて分からないし、何も起きないっていう可能性もない。何より立ち止まってる方がつまんないでしょ。」
僕がそう言うと、ユニィは
「......分かった。」
と一言、僕のことを不思議そうに見ながら言った。だがそれは僕も同じ。顔には出さないが、僕もユニィのことを不思議に思っていた。なぜ僕の夢の中に記憶にない人がいるんだろうか。
色々疑問はあるがとりあえず歩き出そうとした。
しかし、一歩踏み出した時にした一瞬の
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君と紡いだ花の輪を。 Corolla.* @corolla_2637
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