第十三話 「罪報」
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目を開けると僕は白の世界に立っていた。辺り一面真っ白で、他には何もない。
歩いてみると靴の音が反響していた。綺麗な響きだった。
ここがどこかも、なぜここにいるかも分からないが、僕にとっては空気感も、音も、かなり心地がよかった。
目を閉じて歩き続け、反響する音に聴き入っている僕。ふと目を開けるとそこに映ったのは、空中に浮かぶ黒い線だった。見ていると次第に形付き、原稿用紙のような枠線ができた。
困惑する僕を置き去りにし、文字が書かれていく。
「この荒廃した世界で何を描けばいい。」
そう、達筆に書かれた。空中に浮かんだその文字に触れてみるが、実体は無い。ホログラムのようだが、それでも闇のような黒ははっきりとしている。
夢はまだ醒めない。僕は足を進める。さっきの文字を背に、十メートルほど歩くと今度は手が届かない場所に線が現れ、文を書き上げていく。
「分からないから取り敢えず普通を生きていた。」
僕は何も言わず、考えず、前へ進んでゆく。
文字は十数メートル間隔くらいで僕の周りに書かれていく。
「後悔の連続だとか、崩壊を嘆くだとか、」
「そんなことはもうとっくに、過ぎ去ったことで。」
僕は何故だかその文字を見たくなかった。俯いて見ないようにはするが、頭に入って離れない。
僕は、怖くなって足を止めて目を閉じる。
............。
少しして、目を開けると病室のベッドで寝ていた。これが夢か現実か、それは明らかだった。
「逃げるな。」
その文字が、目の上に浮かんでいたからだ。
僕はその文字を振り払うようにベッドから飛び起き、扉を開けるとあの無音の廊下に繋がっていた。扉は昨日と同じようにピシャっと閉まり、僕は前へ進むしかなかった。
僕は早くこの夢から醒めるのを待っていた。ただ無心でフラフラしながら歩いていた。もう随分歩いたが、夢は僕を逃さない。
「うっ...。」
僕は長時間この空間に居たせいか吐き気に襲われ、床に崩れ落ちた。耳鳴りと目眩と動悸で意識が飛びそうだった。意識が朦朧としながら、床を見ると何か書かれていた。
「これがお前の罰だ。」
目眩で視界はぼやけていたが、確かにそう書かれていた。だが考える間もなく、その文字を見るなり僕の意識は飛んでしまった。
...........................。
目を覚ましたのは星空の下、まだ夢は醒めていない。
まだ醒めないのかと思ったが、草むらに寝転ぶ僕の目の上を流星が通り過ぎた。その後、また一つ、二つと夜空を流れ、数秒後には数え切れないほどの流星が夜空を泳いでいた。
ただ、美しかった。さっきの疲弊もあって感情がぐちゃぐちゃになってしまいそうになるが、今のこの景色は、綺麗だと思った。
僕は静かに鳴り響く鈴虫の音を聞きながら目を閉じ、次に目を開ける時にようやく目を醒ますのだった。
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