第十二話 「当然」

 目を醒ましても夢で言われたことを考える。


 僕は死んでしまうのだろうか。君が...だろうか。それとも.........。


 頭の中で色々な考えを巡らせる。


 もしも、もしもこの夢が現実と繋がっているとしたら、先の未来で誰かが死ぬことを、僕は知ってしまったことになる。そんな残酷なことは何が何でも避けたいが...。


 病院生活4日目が始まる。

 こんな目醒めを毎日続けるのだろうか。医者に相談してみようか...でもなんて言えばいい?もう少し、もう少しだけ、様子を見てみよう。


 今日は風音が来る日だ。転んで怪我でもしないだろうか...少し心配だ。


 それと、昨日作った日課は消去してしまった。理由は言うまでもないだろう。いつ会いに行こうか。

 風音は9時過ぎに来ると言っていた。恐らく正午までは帰らないだろう。診察もあるから午前は無理だな。


 ...思ったより暇がないな、2日目が嘘のようだ。夕方くらいになってしまうだろうか。しかも君のお母さんの来るタイミングも分からない。


 とりあえずこれも、様子見か。


 配られた朝食を食べながら、風音が来るのを待っていた。


 ───数時間後───


「やっほーお兄ちゃん!大丈夫ー?」


 分かってはいたが、何も変わらずでちょっと安心した。風音まで何かありでもしたら頭がキャパオーバーしてしまう。相変わらず明るくてよかった。だがここは病院だ。


「病院だぞー、お静かに。」


 ジト目で見ながら言う。風音は、


「......ラジャー!!」


 と満面の笑みは変わらず、声のボリュームを少し下げて敬礼した。


 正直言って風音の大声は許していいと思っている。冗談抜きで癒やされると思う。風音セラピー、あると思う、本当に。


 そんなはたからみたら気持ち悪く思われても仕方ないようなことを思いながら荷物を受け取る。


「ありがとう、やっぱり重かっただろ。」


「あまり舐めないでいただきたいねっ!」


 強がっているところもかわいいな。流石は僕の妹、っと、もう自慢はよしておこう。


 それから風音と色々話し、診察も終わればもう夕陽が部屋を紅く染めていた。時計の針はコンパスのように天井と垂直になっていた。


「もうこんな時間か。」


「それじゃそろそろ帰るね~」


「うん、今日はありがとう。」


「ふふん、そうだろうそうだろう、じゃあね!」


 風音はそう言って自慢げに病室を去っていった。


 僕は夕食を食べ、病室から出る。もちろん、君のところへ行くために。


 コン、コン、コン、と三回ノックをし、


「...どうぞ。」


 君の弱々しい声を聞くなり、中へ入る。


「あっ......。」


 君は驚いていた。


「来て、くれるんだ...。」


 当たり前だ、約束したんだから。


「もちろん、言ったでしょ。というかこれから毎日行こうと思ってたんだけど、君が嫌じゃなければ。」


「嫌じゃない、大変でしょ、毎日なんて...。」


「まさか、いつも退屈してるよ。」


「そう、なんだ...ごめんね。」


「なんで謝るの?」


「あ、ごめんね、口癖で...。」


 また言った。何があったんだこの子には。まだ焦る時期じゃない、時間が経てば分かることだろう。


「大丈夫だよ、君の好きなように喋って。」


「うん、分かった。ねえ、聞きたかったんだけどさ、何の花が好き...?」


 驚いた、君から話しかけてくれるとは思わなかった。嬉しいな、少しずつだけど、心を開いてくれているんだ。


「んーそうだなぁ...。」


 僕は少し悩んだが、不思議とあの夢の景色が頭をよぎり、答えはすぐに出た。


「アイリス、かな、今思いついたのは。」


「私の名前から?」


「それもあるかな。いろんな理由があるけど。」


「そうなんだ。」


 君は嬉しそうに微笑みながらそう言った。やはり笑顔は素敵だった。


「好きなのってアイリス、だけ?」


「いや、もっとたくさんあるよ。今ふと頭によぎったのがアイリスだったってだけ。」


「そうなんだ...!」


 今日の君は昨日の君とは別人のように話に夢中になっていた。


 僕らはその後も話をし、気づけばもう2時間も経っていた。


「そろそろ戻るね。」


「うん、ありがとう...!」


「また明日。」


 そう言って僕は自分の病室へ戻り、本を読んだあと少し早いが眠りについた。

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