第十話 「誓約」

 僕はその後も君と話し続けている。

 話していて思ったが、君との話は飽きない。それほど透き通っていて綺麗な声なのだ。ずっと話していたくなるほどに美しかった。

 それと、暫く世間話をしていたのだが、たまに笑ってくれるようになったのだ。僕はそれがたまらなく嬉しかった。


「そういえば、その...花好きだって、言ってたよね?」


 君は少し嬉しそうに僕に聞く。


「うん、そうだよ。家で色々育ててるし。」


「私も...花、大好きなんだ...。」


「えっ!そうなの!なかなか花好きな人いなかったから嬉しいよ!」


 興奮して大きい声を出してしまった。君に、シーッとジェスチャーされ、感情を抑え込む。でも本当に嬉しいのだ。


 さて.........。


 僕は彼女が十分にリラックスできたところで病気のことについて聞いてみることにした。


「君の病気、白血病ってその、どのくらい辛いの?...答えたくなかったら答えなくていいからね。」


 君は少し悩んだ後、


「...もう慣れたから、辛くは、ない。」


 と俯いて言った。ごめん、ごめんよこんな質問をして。でも僕は君のことが知りたいんだ。知って君の笑顔を取り戻したいんだ。今日初めて会っただけだけど、そう思ってしまうんだ。


「そっか...いつ、治るの?」


「............治らないって...。」


 ...え?......僕は理解ができなかった。驚きで声も出せなかった。


「どう...して......?もうこの時代じゃ治る病気でしょ......?」


 何かの記事で白血病について見たのだ。そこには、抗がん剤や放射線治療、移植などで治ると書いてあった。


「......うん、普通は...ね。...診察の時、お医者さんがたくさん、集まって...何か話してたけど...治らないって言われた......。」


 嘘...。なんで、どうしてこんなにも純粋な子が死ななきゃならないんだ?この世はなぜこんなにも理不尽で残酷なんだろう。僕の頭の中で憎悪が渦巻く。


「ごめん、ごめん、そんな辛いこと...言わせちゃって...。」


「ううん、全然いいよ、もう諦めたから...。」


「駄目だよ。」


 僕は咄嗟に、君の放ったその、余りにも悲しい言葉に被せるように否定した。


「え......?」


 君は驚いていた。


「生きることを諦めちゃ駄目だ。どんなに、辛かったとしても。」


「どうして...?どうせ死ぬ...なら、もう...どうだっていい...。」


「どうせ死ぬ、それなら最期まで、最期まで君のしたいように生きればいいじゃないか。医者は治らないと言ったのかもしれない、でも生きてれば治る可能性だってある!それがどれだけ小さな希望だったとしても、生きることに価値がないなんてことは絶対にない!」


 自分でも驚くほどに舌が回った。


「でも...できることなんてない!外には行けないし、花だってもう見れない!」


「君一人ならできないことも、僕一人加われば可能にできる。君だって、やりたいことがたくさんあるはずでしょ...?」


 ここで君を責めるつもりはない。少しずつ声のボリュームを落としていく。興奮しすぎて喧嘩になってしまったら元も子もない。


「それは.........ある...けど...。」


「だったら、その時が来るまで、一緒に生きてみようよ。僕が退院したら色々持ってくることもできるんだから。」


 .........再び静寂が病室に行き渡る。


「.........退院しても、来てくれるの...?」


「もちろん、喜んで。」


 僕が微笑みながらそう言うと、君は澄み切った目から涙をボロボロと流しながら一言、ありがとうと言った。


 僕は今日、君の生きるこれからの人生を、全力で支えると誓った。

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