第八話 「探訪」
僕はその後もベッドに横たわっていた。謝りに行ったほうがいいだろうか。だが名前は分かっていても苗字が分からない。この病院は病室の名札にフルネームで記載されていないのだ。看護師さんに聞けば分かるのかもしれないが、多分個人情報だの何だので教えてはくれないだろう。
あ、そういえばこの前彼女を助けた時に話した看護師さんは彼女について教えてくれた。彼女が白血病だということも教えてくれたし、結構気さくだった。ちょっと探しに行ってみようか。
僕は布団からのそのそと這い出て病室から出る。
「さて、どこから探そうか。」
探すと言ってもあの時にほんの数分話しただけだ、手がかりがほとんどない。ましては今日、出勤しているのかも分からない状況だ。全ては僕の記憶が頼りになってくる。
───数時間後───
「......いない。」
僕は未だに探し回っていた。もう二時間は経っているのに、どこにもいない。
まず初めて出会った場所を探してみたが、いない。次に一階を行けるところまでくまなく探し、さらに三階、四階と探したがやっぱりいない。
そして現在、もう一度二階に戻ってきてもいない状況である。
さすがにここに居なかったら今日はもう諦めよう。
諦めかけて歩いている時に看護師さんから声をかけられた。
「何か、探していますか?」
「えっ...あ、はい、ある看護師さんを探してて。」
探してるのバレてた。ポーカーフェイスは完璧だったはずなのになぁ。
「どういう看護師さん?」
僕のことを不思議に思いながらも協力してくれるようだ。
「ちょっと年配で、とても気さくな方でした。顔を見れば分かると思うんですが、見つからなくて。」
「あーあの人かな、結構特徴的な人だから分かるわ。多分だけど三階の受け付けに「
「本当ですか!ありがとうございます!」
「お役に立ててよかったわ。」
本当に助かった。あのままだったら見つかるまで毎日探すところだった。聞いてみるって大事だな。しかし僕はちょっとコミュ障なのだ、なかなかハードルが高い......っていう言い訳をしておこう。
そんなことを考えながらも早足で歩き、三階の受け付けの前についた。
あの看護師さんに言われた通りに言ってみる。
「あのー、すみません。本真さんって方いらっしゃいますか?」
「本真さん?何かご用ですか?」
「ちょっと本真さんに聞きたいことがありまして...。」
「分かりました、お名前は?」
「明上佑凌です。」
僕の名前を聞いた後、受付の人は奥へ入っていった。
しばらくした後、本真さんを連れてきてくれた。本真さんは僕の顔を見るなり、
「ああ!ゆうりくん!昨日ぶりだね!」
と、甲高い声を張り上げた。周りの看護師さんから「静かに!」と注意された後、僕の方に来てくれた。
「今日はどうしたの?」
「えっと、この前の女の子のことで、その、どこの病室にいるか教えてほしくて。」
「ああ、それだったらここを右に曲がって突き当たりから二つ手前の左の病室よ。」
すごいあっさり教えてくれた。これだったらあんなに歩き回る必要無かったのでは?普通に聞けばよかったじゃないか。思い込み、もうやめよう...。
「ありがとうございます。」
「いいのよ〜、それだけ?」
「はい、ありがとうございました。」
「また困ったらおいでね。」
「ありがとうございます。」
と僕はありがとうを連呼し、ペコペコしながら彼女の病室へと向かうのだった。
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