第七話 「彩夢」
病院生活3日目、僕は朝起きて病院食を食べている。初めての病院食でどんなもんかと思ったが、正直言って物足りない。消化の良い食べ物を選んでるだろうからしょうがないんだろうけど...おかずが少ないし味が薄い。
でも僕のために体調を考えて料理してくれている人に失礼なので心の中に留めておく。
食事を済ませ、食器を看護師さんに回収してもらい、今日何をするか考える。病院内を歩いてもいいけど、多分三階からは病室があるだけだよなぁ...。暇な時間も有効活用しないと無駄になってしまうから.....うーん、そうだなぁ......。あ、
「日課でも作ろ。」
そう呟き、スマホを手に取る。メモアプリを開き、考えついた毎日病院でできることを箇条書きに書いていく。
・勉強する
・本読む
・作曲
......ピコン!
書いていたところで風音から連絡が来た。
「明日休みだからお見舞い行くね〜」
ナイスタイミングだ、さすがは我が妹。ちょうど持ってきてほしいものがいくつかあったのだ。
「ありがとう、じゃあついでに持ってきてほしいものあるから持ってきてくれない?」
「いいよー何持ってく?」
「机の上にあるパソコンと充電器、あと『忘れないよう、僕はこれから。』って本と、楽典っていう黄色い本と和声っていう赤い本持ってきて欲しい、多くてすまん」
パソコンは作曲用、楽典と和声は音楽の勉強用だ。
「OK!準備しとく!」
「重くないか?」
「私、お兄ちゃんみたいに非力じゃないからね」
なんか煽られたんだが。
「まあ無理するなよ、前に倒れたことあっただろ」
「あーそんなこともあったねぇ、でも大丈夫だよもう学んだから!」
「うーん、まあいいや、とりあえずよろしく」
「りょーかいいたした!」
僕は風音のメッセージにリアクションをして日課作りに戻る。
「よし、時間を決めるか。」
───数分後───
十分くらいで日課ができた。
7:30 朝食
8:00 本を読む
9:00 和声の勉強
10:00 自由時間
12:00 昼食
13:00 楽典・問題演習
14:00 作曲
18:00 夕食
19:00から自由
こんなもんでいいだろう、かなりアバウトだけど。本も読み終わっても今はスマホがあるからな、ネットでいくらでも読める。
さて、今から何をしようか、と考えた時、
......コンコン
ん、誰か来た。
「どうぞ~」
僕がそう言うと、扉が開いた。入ってきたのは車椅子に乗った女の子とこの子のお母さん、かな?
「明上くん、だよね?」
扉を閉め、女の子のお母さんがそう言う。
「はい、そうですが...。」
「先日は娘を助けて頂いてありがとうございました。」
と頭を下げられた。僕は一瞬戸惑ったが、
「ああ!この前の!僕は助けを呼んだだけですよ。それよりも娘さんが無事で良かったですよ!」
と返す。しかし彼女は死んでいるかのように何も反応がなく、動かない。すると、
「ほらっあんたも何か言いなさいっ」
とお母さんが車椅子を軽く叩く。ビクッとした彼女は怯えながら、
「ありがとうございました......。」
と微かにしか聞こえないほどの小さな声で言った。
「ごめんなさいね、この子話すのが苦手で。」
僕はいえいえ、大丈夫ですよとジェスチャーで伝える。それよりも、僕は彼女と話をしてみたかった。
「あの、ちょっとだけこの子と話してもいいですか?」
「え?話、ですか?」
「はい、ちょっとだけ、ダメならいいですけど。」
「いいですけど...何も話さないと思いますよ。」
「それでも大丈夫です。」
「分かりました、ちょっと席を外しますね。」
そう言って病室を出ていった。彼女はお母さんがいなくなったことで少しリラックスした様子だった。やっぱりお母さんに怯えてたのだろうか。僕もあのお母さんは苦手だ。話が通じなさそうな感じがする。
さて......。
「君の、名前は?」
「...なん、で.........なんで言わないといけないの?」
「言いたくないなら言わなくてもいいんだよ、ただ何か、怯えてるというか、悩みがありそうだから。」
僕がそう返すと、少しの静寂が続いた。
「...ぁ.........め.......。」
「ん?」
「...あ......や...め...。」
彼女は少し沈黙したあと、ボソッと答えてくれた。
「あやめ、いい名前だね。僕、家で花育てるのとかが趣味で、花好きなんだ。あやめも綺麗な花だよね〜」
「そう...なんだ......。」
話を聞いてくれているみたいだ。無言で終わるもんかと思っていたが。というか違う違う、今は彼女の話を聞きたいんだ。
「ねえ、あやめちゃん。君はさ、何にそんなに打ちのめされてるの?」
思い切って質問してみた。すると彼女は顔を上げた。初めて目があった、綺麗な目だ。
「どうして、そう、思ったの?」
彼女はびっくりした様子で僕に聞く。
「色々理由はあるけど、ずっと俯いてるからさ。.........やっぱり、病気のせい...?」
そう言うと、彼女の目から涙が溢れ落ちた。
「だ、大丈夫!?」
僕はベッドから飛び出て彼女の背をさする。その時、僕の大きな声を聞きつけお母さんが中に入ってきた。
「何やってるの!?」
あ、これはめんどくさいやつだ。
「あやめに何したの!」
彼女のお母さんは怒鳴り、こちらを睨む。
「え、あ、いや僕は何も...!」
僕は説明しようとしたが、間髪入れず、
「もううちの子に近づかないで!」
と怒鳴られ、病室から出ていってしまった。
「まだ、話せてないのに...。」
僕は話せなかったことを悔やみながらベッドに戻った。
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