第六話 「往日」

「おはよう!」


 と、明るい声で彼女に挨拶された。


「関わらないでって言ったんだけど...。」


「んー?覚えてない!」


「えぇ......。」


「話そ〜!」


「わ、わかったよ...。」


 呆れた、そんなに話がしたいなら僕以外の誰かにでも話したらいいのに。仕方なく話に付き合ってみる。


「ねーねー、君は外にいかないの?」


「行かない。暑いし、運動したくないから。」


 淡々と、彼女の興味が向かないように返す。僕は運動したり外に出ることが嫌いだ。単純に疲れるし、別に楽しくもない。それよりも本を読んでいたほうがよっぽど楽しい。これほど考察のし甲斐のあるものは他にないだろう。


「いつも本読んでるもんね〜!」


 彼女はどこか嬉しそうにそう言う。残念がられると思っていたんだが...心が読めない...。


「君だっていつも外に行かないじゃないか。」


 あまり意識していなかったが、彼女が昼休みに外に出ているのを見たことが無い。体育の授業もずっと見学していた記憶がある。


「んーと、それはね、お母さんがダメって...って、私のことはいーの!」


 何故か流された。教えられないことなのだろうか。まあ興味ないからいいのだが。


「ふーん、まあいいけど。それで、終わり?」


 僕はあえて無愛想に返す。


「えーまだまだだよっ!いつもなんの本読んでるのー?どういう系が好き?あ、そうだ!好きなものとかってないの〜?」


 逆効果だったようだ。一気に質問が多くなった。ただ、自然と話していて悪い気はしないな。


「えっと...感動系のラブコメ、とか?あとは、花の図鑑とか、よく見る...。花、好きだから...。」


 普通に話してしまった。答える気は無かったのだが、不思議と話したくなってしまった。


「ラブコメっていーよねー!泣けるのとか最高っ!私、花も好きだよ!」


 何故ここで意気投合してしまうんだ。もう終わろうとしていたのに。そろそろ潮時...か...。残念だと思った、初めて。でも駄目なんだ、僕は関わっちゃ駄目なんだ。


「ねぇ、もう十分でしょ。話しかけないで。こんなつまんないことに時間使いたくないから。」


 ごめん、ごめんよ。でもこんなにも明るくて良い子が僕のせいで...なんて考えたくもない。早く彼女から離れなければ。


「えっ...なん...」


 と彼女が言いかけた途端に横から、


「はあ?何なのその言い方!せっかく話しかけてやってんのに!」


 と僕の机を叩かれ、怒鳴られた。同じクラスの宮下だ。


 ああ、そういえばこいつだっけ、いつものって。はあ、これだから人と関わるのは嫌なんだ。しかも、だってさ。宮下が僕に話しかけた訳でもないのに。


「いや、私は大丈夫だよ...!りいなちゃ...」

「いいから!もう行こ!あやめ!」


 と彼女の言葉を無視し、手を引っ張ってどこかへ行ってしまった。ため息が絶えないな、でも逆にありがたい、本に集中できる。そう思いながらも、僕は一つ呟く。


「めんどくさいな......。」


 ──────────────────


 ............目が覚めた。



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