第五話 「邂逅」

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「どうして声をかけてくれたの?」


「話してみたかったから!」


 少女は満面の笑みでそう答えた。


「僕には近づかない方がいいよ。」


「どうして?」


「みんなから嫌われちゃうよ。」


「でもー、私は話したいから、話そ!」


「そう...なんだ......そっか。」


 君がそれでいいのなら、喜んで。


「ごめんね、じゃあね。」


「えっ?どうして?ま、待ってよ!」


 君の声を背に僕はその場を立ち去った。姿形、記憶に残らないよう、あの子が追いつけないよう、全力で逃げるように走った。


「素直って......無理だよ。」


 走りながらそう呟く。


 行ってはいけない屋上、足を止める。


「生きづらい。」


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 僕は今更、いつの夢を見ているのだろうか。忘れたはずなのに。君と交わした数えられるほど少ない会話を、よく夢に見る。あの頃の僕はもう、捨てたはずなんだ。


「もう、許してくれよ...。」


 目に涙を浮かべながら体を起こす。「新しき夢」は見れない。その代わり、「古き夢」が僕を襲う。僕はあの明晰夢を「新しき夢」、今日の夢を「古き夢」と区別するようにした。


 僕は目を擦って涙を拭い、今日を始める。



 病院生活2日目、僕は少し動けるようになった。鳩尾みぞおちの痛みがある程度引き、歩けるようになったのだ。だから今日は病院探索をしてみようと思う。僕はさっきまでの出来事を紛らわすため別のことを頭の中に巡らせている。


「よし、ちょっと歩いてみよう。」


 病室内で足踏みをしたり往復してみたりして体を起こし、病室を出る。


 一回から探索してみようと、エレベーターへ向かう。その途中、フロアマップがあったので少し見てみた。

 まず、この病院は8階建てだ。その内、僕の病室は6階で、6階は外科と消化器内科のフロアに区分けされていた。一階にはロビーとかレストランとかカフェまであるらしい。ちょっとワクワクしながらエレベーターを待つ。


 一階に着いた。あの閉鎖的な病室とは違い、天井が高く、吹き抜けになっており、広々とした空間が広がっていた。ロビーの前には診察の手続きを待つ人でいっぱいだったが、それでも圧迫感はなく、リラックスできた。


 そして僕が真っ先に向かったのはカフェである。何も食べれないのにも関わらず、興味本意で行ってしまった。店員さんに、


「何も食べれないんですけど、ちょっと入ってみてもいいですか。」


 とダメ押しで聞いてみる。なんと、快く了承してもらえた。それほど混んでいなかったのもあるとは思うが、優しい世界だなと感動した。


 僕は気分よくカフェを堪能した後、探索を再開した。


 一階も二階も見終わり、僕が三階へ向かうエレベーターを待っていた時、点滴を押して歩く女の子が息を切らしながら僕の横を横切り、階段へ向かっていた。僕は急いで足を動かし、彼女の肩を軽く叩いて引き止める。


「あのー...そっち階段ですよ、点滴押しながらじゃ...」


 そう言いかけた途端、彼女は僕の方を向くなり地面に倒れ込んでしまった。その時の彼女の顔は真っ青でかなり体調が悪いようだった。僕が彼女に何かしてしまったんじゃないかと焦りながら周りに呼びかける。


「あの!誰か助けを呼んでください!人が倒れました!!」


 僕は胃の痛みを堪えながら精一杯の大声を出す。そばにいた看護師さんが応援を呼び、彼女は連れて行かれた。残った看護師さんから、


「呼んでくれてありがとう、助かったわ。」


 と、優しい声で話しかけられる。


「い、いえ...当然のことをしたまでですよ。それより、さっきの子は...?」


「あの子は急性白血病の患者さんでね、まだ若いのに可哀想だわ...。あんまり動かないよう言ってるんだけど...いつも病室を抜け出してはあんな風に息切れして運ばれてるのよ。」


「白血病...どうして...。」


「不思議でしょう?どうして同じことを繰り返しちゃうのかしらねえ...。そういえば、君の名前は?」


明上佑凌あかがみゆうり...です。」


「ゆうり君ね、あとであの子に伝えておくわね。」


「いやいや、いいですよ!大したことはしてないので...。」


「いいのよいいのよ!胸張ってなさい!じゃあ私は仕事に戻るわね!」


 と気さくな看護師さんに流されてしまった。なるべく人とは関わりたくないんだが...。もしあの子の親とかがお礼にでも来たらそれとなく話して終わりにしよう。


「はあ...」


 一気に体力を持ってかれた。今日はもう病室に戻って休もう...。僕はため息をつきながらエレベーターに乗り、自分の病室へと戻っていった。

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