第三話 「卒爾」
僕は目を醒ました...はずだ。だが、目の前に映るのはいつもの天井ではない。真横ではアイボリーのカーテンが風に揺れている。隙間から差す
「痛っ!」
腹部に痛みが走った。筋肉痛とかそんなレベルではない。僕は起き上がれずに体勢をもとに戻す。しかしまだ痛みはジンジンと続いている。
「お兄ちゃん、動かないで!さっき手術したばっかりだから!」
風音が焦って僕を取り押さえる。く、痛い。胃のあたりが張り裂けそうだ。ん?ちょっとまて、手術?何の話だ。お腹の痛みに強制的に起こされた僕は冷静に今の状況を整理しようとする。
まず、起きたらお腹が痛くて、病院のベッドで寝ていて、パジャマを着ていたはずが病衣になっていて...............どうやら僕の脳はそこまでハイスペックではないようだ、全くわからない。諦めて思考を停止させる。決して僕がバカとかそういうのじゃない、はず、うん、そう、きっと。大人しく風音に聞くことにした。
「昨日の夜、何かあったの?」
「お兄ちゃん覚えてないの!?」
「はい、全く。」
何のことですか、僕はぐっすり気持ちよく夢を見ていましたよ。夢のことは鮮明に覚えているが...。
風音が続ける。
「昨日の夜ね、お兄ちゃん早めに寝たから私ももうそろそろ寝ようと思って階段上がったんだけど、お兄ちゃんの部屋からおっきい唸り声が聞こえて、お兄ちゃんの部屋入って確認したんだよ。」
「えぇ、それで?」
「そしたらね、お兄ちゃん汗でびっしょびしょになりながら苦しい、苦しい、ってずっと言ってて、ほんとに顔色悪かったから救急車呼んだの。」
「えーすごい辛そうー。」
僕自身のことだが、他人事のように反応する。だって知らないもん、そんなこと。そんな状態であの夢を見ていたことにびっくりだ。
「それで治るの...?」
「うん、2週間くらいで自由に動けるようにはなるらしいよ。なんかきゅーせー...なんちゃらっていう胃の病気だってさ。普通の人より症状が酷いってお医者さんが言ってた。」
いかいよーとかいうやつだろうか。まあ治るなら名前なんてどうでもいいか、興味無いし。
しかしどうして急に......。今まで胃に異常なんて無かったのに。それどころか風邪もほとんど引かない健康体だと自負していたのだが。なるほど、それで急性という訳か。突然とは怖いものだな。
授業の出席日数大丈夫かなとか、もうちょっとで曲できるのにとか、自分の体には興味の欠片もなく他のことばかり考えてしまう。
風音には心配をかけてしまったな。学校を休んでずっと居てくれたみたいだ。ろくに寝れていないだろうに。
「風音、僕はもう大丈夫だから今日はもう帰ってしっかり休んだほうがいいよ。全然寝れてないでしょ。」
「でも...」
風音が何かを言おうとするが僕はすかさず、
「ダメ!生活習慣大事!自律神経おかしくなっちゃうでしょ!」
と過保護っぷりをかます。腹から声を出したことで痛みが走ったことは内緒である。
「はぁい...お兄ちゃんも無理しちゃだめだからね。」
「うん、分かってる。」
風音は念を押し、病室から出ていった。
「ふぅ...」
僕以外に誰もいない病室でため息をつく。そして今日の夢のことを考える。
二日連続で
......誰か来る気配もしないし、もう日が落ちそうなのでもう一度寝てみることにする。うん、友達とかいないし、親も......。それ以上考えるのをやめ、眠りにつく。
しかし、今日は夢を見ることはできなかった。
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