○○に挑め! ~糸巻高校演劇部~

とろり。

Take1 格好良くハミガキをしろ!


 藤枝部長は俺にいつも無理難題を押し付けるんだ。


幸一こういち、格好良くハミガキをしろ!」


 待ってくれ部長! 俺は普通に歯を磨きたいんだ。格好良くハミガキなんか出来やしない。


「できない、とでも?」

「い、いえ……」

「舐めろ」

「はい?」

「格好良くハミガキができないのであれば私の足を舐めてもらう」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

「3、2、1、GO!」


 左手を斜め上に、右手に歯ブラシを持ちそしてムーンウォークしながら歯を磨く。

 シャコシャコ

 時折スマイル。

 ターンアンドシャイニースマイル。

 どうだ? 藤枝部長はこれで満足か?


「舐めろ」

「はい?」

「私の足を舐めろ」

「い、嫌と言ったら?」

「社会的に死んでもらう」

「非道いですね! てか、部長の足を舐めるのも社会的に死にます!」

「せっかく綺麗になった口だ。舐めるには良い状況だ」

「……。部長……。わ、分かりましたよ、」


 うがい後のミントがほんのり香る俺は口から徐々に舌を伸ばし、藤枝部長の白い肌の足へと顔を近づけていく。

 二人だけの部室の中、禁断の儀式が行われようとしていた。

 少しずつその距離は短くなり、心臓が脈を速く打つ。


「幸一、もう一度だ、格好良く歯を磨け」

「はい?」

「その度胸があるのなら、歯が無くなるくらい格好良くハミガキができるはず」

「そこまで磨きたくありませんよ?」


 俺は立ち上がり、再び歯ブラシを右手に持った。いや、左手が良いのか? サウスポー幸一、うん、歯ブラシを150キロの速さでキャッチャーミットに収められるかもな。あ、投げちゃ駄目だな。

 歯ブラシを左手に持ち直し、シャツを脱ぎ上半身裸で右腕で力こぶを魅せる。次に大胸筋をアッピール。少し割れてる腹筋もアッピール。

 上体起こしをしながらのハミガキ。毎日のルーティンにいいかもな。

 部長に振り返り、スマイル。さらにスマイル(0円)。

 起き上がるついでにハミガキブリッジ。「ブリッジ入れ歯には気をつけろ!」「ハミガキブリッジを封鎖できませんっ!」 CM待ってるぜ! 

 逆立ちしながらのハミガキ。

 シャコシャコ。アンドスマイル。

 腕の跳力を利用し通常の立ち。

 シャコシャコ。

 行くぜ! バク転だ! ほっ!

 くるりと一回転。こんな時でもハミガキを忘れない。君を忘れない。

 最後はとびっきりの笑顔を魅せる。

 ピカピカの白い歯は眩しいばかりの輝きを放ち、そして――


「合格だ」


 藤枝部長は微笑みながら言った。

 部長は椅子から立ち上がると俺に近付き、マイ歯ブラシを奪うと


「代わりにこれをやろう」


 部長は金ピカの歯ブラシを差し出した。

 え? 俺は池に歯ブラシを落としてませんが。

 まあ、金は高いもんな。ありがたくいただこう。


「ありがとうございます」


 金ピカ歯ブラシを持った瞬間、ものすごい重みに床に平伏した。


「10キロだ。鍛えろ。あと絶対売るな

 金売 ダメ、ゼッタイ」


 この小ささで10キロ……恐るべし金ピカ歯ブラシ……

 こっそり売ってバックれようか?

 いや

 もう戻れなくなるな。

 俺はあいるびーばっく、だ


「幸一の右腕が魅たい」


 右腕? 10キロで右腕だけ鍛えると、バランス悪くなるな。右腕だけあいるびーばっく、だ。何言ってんだ俺。

 にしても10キロ歯ブラシを軽々と……恐るべし藤枝部長……


「次のお題は、周りもつられるように泣け。しっかり練習しろ」



 Take1 End



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

○○に挑め! ~糸巻高校演劇部~ とろり。 @towanosakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ