第32話 ふりだしに戻りました。
魔王討伐依頼を受けた私たちは森の街ヨークレイまでやってきた。
「ここに来るのは2か月ぶりかしらね」
私がここで勇者パーティーを追放されてから、本当に色々なことがあった。勇者のロベルトが殺されて弟のエドガーに変わったし、聖女も私の代わりにリリアナが、索敵役もレティの代わりにウィンドになった。そして、ゴードンとミラはお役御免となった。
「よく考えたら……。今の勇者パーティーって、誰も残っていないわね」
驚きである。気づいたら解散からの再結成のような状況になっていた。元々は私が聖女に祭り上げられてしまったのを、リリアナに押し付けるために計画していた追放劇だったのだが……。これなら最初からロベルト殺しておけば良かったんじゃないかと思ったが、カークライトにジト目で睨まれてしまった。
「何を考えているかは何となく分かりますが……。ダメですよ。それをしたらお嬢様はずっと聖女のままでしたからね。第二王子のエドガーも、第三王子のルイスもお嬢様に執着していますからね」
「えっ、マジで?!」
「もちろんです。ロベルトのお陰で、お嬢様が追放されたんです。早まらなくて良かったですね。もし、殺してたら……。お嬢様はどこかの辺境のお城に監禁されていたかもしれませんね」
「ひぃぃぃぃ!」
そう言って、カークライトはニッコリと微笑んだ。しかし、私にとっては笑い事ではなかった。王家の婚約者にされた挙句、結婚を強要されるだけでなく、何もない辺境で監禁されるとか、正気の沙汰とは思えなかった。しかし――。
「でも、何か根拠はあるんですの?」
「はい、ルイス王子はお嬢様が聖女だった時に、何回か暗殺者を2人に送っておられたようです」
確かに、私が勇者パーティーにいた時、頻繁に暗殺者が来ていたような気がする。大した相手ではなかったので、ことも無く撃退していたが……。
「たしかに。雑魚ばかりでしたけど、頻繁に暗殺者がいらしてましたわね」
「お嬢様。『影』基準ではそうですが……。彼らは一流の暗殺者ですよ?」
彼の言葉に、私は驚きのあまり目を見開いた。
「それじゃあ、何ですの? 私が妨害しなければ、ルイス王子が勇者になっていたということですの?」
「はい、そして、彼は辺境に巨大な城を建設しているようです。フロールイス城という名前だそうです。婚約者のために建てたと仰られているようですね」
「あれ? 彼って、婚約者いませんわよね?」
「はい、ですが、勇者になれば、お嬢様が婚約者でございます。ですから、お嬢様のフローレスと彼のルイスからフロールイス城になったようですね。お嬢様、愛されておりますね」
私は彼のことを、自分を本当の姉のように慕ってくれている純粋な少年だと思っていた。だが、彼は束縛系ヤンデレキャラだったのだ。それを認識した瞬間、全身に寒気が走る。それは正しく恐怖であった。いかなる相手を前にしても起こり得なかった感情、それを想像だけでもたらす彼は何とかしなければならない問題と言える。
「最悪の場合は、アレを使うしかありませんわね……」
「まさか……。アレを?」
「致し方ありませんわ。全てが落ち着いたら……」
私の決意に息を呑むカークライトだが、最終的には私の意思を尊重してくれるようだ。私の目を見据えながら大きく頷く。
「それはそうと、何でリリアナが聖女になったのに、ロベルトは殺されたのでしょう?」
私が目的であれば、リリアナが聖女になった時点で彼には勇者になる理由が無くなる。そう考えると、彼の行動は極めて不自然だった。
「それは、お嬢様を追放したからのようですね。」
「……」
「エドガー殿下がいらっしゃる、というのも大きいかとは思いますが、お嬢様を追放したロベルトはいずれ天罰が下るであろう、と仰っていたようです」
天罰じゃなくて、お前が暗殺したんだろうが。そうツッコミを入れたかったが本人不在ではどうしようもない。いったんは、その話題を保留にしておくことにした。
「では、魔王城へ向かうとしましょうか」
「はい、まずは魔王城の近くにあるユーゴ村へと向かいます。ですが、少し距離がありますので、遠回りにはなりますが、鉱山の街ロックフェスに立ち寄る予定です」
「まっすぐ行けませんの?」
「行けなくはありませんが……。途中にナイトハンターが住むダークフォレストとヴォルケノ火山。それからロックワームのいるマッドネス砂漠を通ることになります」
「……仕方ありませんわね。旅のついでですので、ロックフェス経由で参りましょう」
「かしこまりました」
依頼をとっとと終わらせたいという気持ちはあるものの、せっかく手に入れた自由である。何が悲しくて野獣や魔獣と戦いながら、地獄のような環境で過ごさなければいけないのだろうか。そう思うと、私の取るべき道はロックフェス一択であった。
「そう言えば、お嬢様。鉱山の街ロックフェスですが、どうやら鉱山の中にロックワームが現れたために、閉鎖しているようですね」
「それを聞いてどうしろと?」
「いえ、その代わりとして、音楽イベントを開催するようです」
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