第31話 魔王討伐依頼
レイクイールにてウーナ丼を満喫した私たちは、『王国の影』の伝令から連絡を受けて、一路王都を目指していた。
「この辺も平和になったなぁ」
私は馬車に乗って、そんなことを呟いていた。スケイリアとカークライトも馬車に同乗していたが、彼らも普通に寛いでいるようだった。しばらく前まで盗賊の恐怖に怯えていたスカイゲートの街も、今や平和そのものであった。
「ま、領主は変わっちゃったけどね」
「お嬢様が殺してしまいましたからね。怖い怖い」
「何を言ってるんですの! あれは正当防衛ですわ」
「「……」」
私の主張を聞いて、2人とも黙ってしまった。確かに追い詰めてしまったかもしれないが、先に手を出してきたのは向こうなので問題はなかった。
馬車はスカイゲートの街を素通りして王都へと走る。
「ちょっと! なんで街を素通りしますの!?」
「緊急の呼び出しと言うことなので仕方ないのです。馬車も宿泊可能な大型のものを用意しましたし、もう少し我慢していただければと……」
私の舌は既に肉串を受け入れる態勢だったのだが、そのお陰でカークライトの説明が死刑宣告のように思えてしまう。
「最期に……。肉串が食べたかったですわ。ガクッ」
馬車の中で力尽きる私を見て、2人が呆れたように肩を竦めるが、そんなことで馬車が止まる訳もなく、王都へと走り続けていた。
翌朝、私たちは王都に到着した。そして、王宮に向かってさらに走っていると、馬車の壁に風車の描かれたカードが刺さった。
「ウィンドですか……。何と言ってますの?」
「『王宮にて謁見を願う。正装を推奨』とのことです」
「仕方ありませんわね。着替えますわよ」
王宮の前に馬車が到着し、私たちは馬車から降りる。
私は純黒のドレス、スケイリアは漆黒の鎧、カークライトは喪服という、いつもの正装に着替えていた。顔バレもまずいと思った私は蝶の仮面をつけている。
馬車から降りると兵士たちが左右に割れて、奥へと進むように促される。
そのまま進んで国王のいる玉座の間にやってくると、既に国王が玉座に座っていて、その脇には勇者であるエドガー、聖女のリリアナ、そしてウィンドがいた。
「よくぞ参った」
「何か御用でしょうか?」
国王に不躾に用件を尋ねる。本来なら、王国の太陽がうんちゃら的な挨拶をするらしいのだが、今の私は『王国の影』のマスターなので関係ない。
しかし、挨拶もなく単刀直入に用件を聞いた私に、少しムッとした表情になる。
「相変わらずだの。だが、ムサッシよりマシ、か……」
これでもマシとか言われる父はどんな感じだったのか気になるが、とりあえずは用件の方である。
「用件とは他でもない。お主に魔王討伐を依頼したいのだ」
「えっ?!」
私は素っ頓狂な声を上げてしまうが、そんな私を無視して話を続ける。
「全員が知っているわけではないが、ワシもかつて『王国の影』に魔王討伐を依頼したのだよ。しかし、この事実はあまり公にはしておらんし、特に聖女には絶対に秘密だったからな。知らない者がいても無理もない」
「なぜ聖女に秘密にされているのですか?」
「王室の権威のためだ。このことがバレたら聖女を婚約で縛り付けられなくなるではないか」
どうやら、聖女を自分の手元に置いておくために、魔王討伐に聖女が必要であることを強調して婚約からなし崩し的に縛り付けるために秘密にしていたようだ。確かに、魔王討伐に聖女が必須でないと分かれば王室に聖女が縛られる理由はなくなる……。
「……」
そんな理由で2年も拘束し続けた国王は、この時、私の成敗リストに入ることになった。
「し、しかし……。魔王には聖女の祝福が無ければ傷一つ付けられませんでしたが……。現にウィンドは一度、瀕死の重傷を負っております」
そうエドガーが主張するが、国王は静かに首を横に振った。
「いや、それは無いだろう。実際にムサッシはヴァネッサと共に魔王を討伐したのだからな」
「ヴァネッサ殿が聖女だったのではないでしょうか?」
「それはわからん。彼女は王国民ではないからな」
「「「えっ?!」」」
フローレスの母親でもあるヴァネッサ・ローズが王国民でないという事実に、その場にいた人間が一斉に驚きの声を上げた。
「彼女は、ムサッシが魔王討伐から戻ってきたときに初めて会ったのだからな。それで会って早々『俺たち結婚しました』だ。普通は先に話をするものじゃないのか?」
「ま、まあ……。彼には常識が通用しませんからね」
「……」
私がすかさずフォローに回ると、全員が無言で頷いていた。
「しかし、聖女はともかくとして、『聖剣』をどうすべきかだな。ムサッシは色々とおかしいから何とかなったのかもしれんが……」
「ご心配には及びません。私にはこちらがございます」
そう言って、ナイフを取り出して掲げる。
「こちら『セイテンケン』と呼ばれる聖剣の1振りでございます」
「バカな!? 聖剣が他にもあるだと?」
国王の問いに私は静かに頷く。聖剣は王国では唯一とされている。しかし実際には、この世界には7振りの聖剣が存在する。この王国の聖剣である『聖王剣』、私の持つ『セイテンケン』、そしてエルフ達の『セイレイケン』、竜に伝わる『セイリュウケン』、帝国の至宝『セイテイケン』、この世界のどこかに存在すると言われている浮遊都市に眠る『セイクウケン』、死者たちの王国、その不死王が持つと言われる『セイメイケン』である。
「以上にございます。もっとも、聖剣はどこの国においても至宝。その存在をむやみに明かすことは無いと存じます」
「あい分かった。ではお主に正式に依頼をさせていただく。必要があればエドガーたちにも協力させるが?」
「いえ、不要でございます。私には……。こちらにスケイとカークがおりますから」
「なるほど……。確かに一騎当千の実力の持ち主のようじゃな」
「「光栄でございます」」
国王のお世辞に、スケイリアとカークライトは恭しくお辞儀をする。
「それでは……頼んだぞ」
「御意」
私はあらかじめ用意していた煙玉を使うと、そのまま窓から退室した。なぜなら、私たちは『王国の影』だからだ。
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