第28話 クソヤーロを断罪します

 私が作ったウーナ丼を料理人が食べ終えた頃、2人が調査から戻ってきた。私たちは、さっそくウーナ丼を2人に振舞って事情聴取をした。私の得た情報と照らし合わせるまでもなく、クソヤーロは明らかに領地の利益を収奪するように動いていた。


「コンサルを騙って領主に取り入り、利益誘導するなど……。コンサルの風上にも置けませんわ」


 今こそ、前々世で培った社畜の力を発揮する時と、私の直感が告げていた。クソヤーロは確かに優秀なのだろう。しかし、所詮は文明の遅れた世界での話だろう。前々世において、N総研でコンサルとして酷使されていた私にとっては恐れるに足りない存在であった。


「さて、スケイ、カーク。さっそく乗り込みますわよ!」


 今晩は領主であるドール侯爵とクソヤーロの会合が行われる。そこに乱入しようということであった。領主の屋敷への道を私を先頭に、右後ろにスケイリア、左後ろにカークライトが控えながら突き進んでいく。


 ドール侯爵の屋敷の門までたどり着くと、昼間と同じように門番が立ちふさがった。


「ここはドール侯爵の屋敷だぞ。用が無いなら帰れ!」

「……。スケイやっちゃってください」


 スケイは門の前で構えると、素早く剣を抜き放った。その直後、屋敷の門はバラバラに切断された状態で崩れ落ちたてしまった。


「さて、いきますわよ」


 門番は槍を構えて威嚇していたが、スケイリアの剣技を見て彼我の差を思い知ったのか、向かってくる様子はなかった。


「お、大人しくしろ!」

「ここは通さんぞ!」


 敷地に入った後も、何人も私たちに向かって槍を構えてきている。しかし、通さんと言っているのだが、彼らはきれいに左右に分かれていた。私たちは左右に分かれた彼らの間を悠然と進み、屋敷の中へと入る。


 そして、屋敷の中にいる衛兵たちをなぎ倒して、会合の行われている部屋に入っていった。


「何者だ!」


 ドール侯爵と談笑していたクソヤーロは私たちを睨みつけながら問い詰めると、ドール侯爵が穏やかな笑顔でクソヤーロに話しかけた。


「我々は革新的なタレントを戦略的にアクイジションしました。クソヤーロ様の先見の明あるインサイトに基づき、ベンチマーキングの必要性を認識し、アジャイルな意思決定プロセスを経て、彼女たちをオンボードしたのです。この動きは、我々のエコシステムにダイナミックな相乗効果をもたらし、イノベーションを加速させることでしょう(彼女たちは新しいコンサルタントです。あなたが前々から仰っていたように比較対象が必要だということで、急遽依頼したのです)」

「なるほど、その戦略的な動きは理解しました。しかしながら、私もトップティアのストラテジストとして、マーケットをリードする存在です。クライアントとの深いエンゲージメントと長期的なバリュー創出を軽々しく手放すつもりはありません。我々のコア・コンピタンスとディスラプティブなアプローチが、持続可能な競争優位性を確立しているのです(そうか、それなら仕方ないな。だが俺も一流のコンサルだ。そうやすやすと顧客を奪われるつもりはない)」


 2人の会話にスケイリアとカークライトは困ったような表情を浮かべていた。しかし、かつてコンサル社畜として働き続けた私にとって、この程度は児戯に等しかった。


「あなたの自由裁量によるオペレーションは、ここに最適化のターニングポイントを迎えます。貴殿は地域エコシステムのキャピタルフローを戦略的にコントロールし、収益をセルフダイレクトする意図を持っておられました。その際、ブルーエコノミーのサステナビリティに対する潜在的なネガティブインパクトを認識しつつも、推進されていたわけですね(あなたの好き勝手にできるのもこれまでです。あなたは領地の資本を掌握して、利益を自分の下に誘導しようとしていました。それによって、水産資源に致命的なダメージがあると知りながら)」


 私の的確な指摘にクソヤーロの顔に動揺が広がる。


「ご指摘の事項に関しては、俺の認識とは著しく乖離しており、我々のビジネスプラクティスとの整合性が見られません。このような根拠に乏しい言説は、プロダクティブな対話を阻害し、ステークホルダー間の信頼関係を毀損する恐れがあります。建設的なコミュニケーションを通じて、相互理解を深め、Win-Winの関係性を構築することこそが、我々のミッションです(何を言っているのか、全く身に覚えのないことでございますな。くだらない言いがかりはやめていただきたい)」


 クソヤーロは言い逃れをしようとした。しかし、私から逃れることなど不可能だ。


「興味深い情報をお持ちのようですね。しかし、その非公式な財務データと環境アセスメントレポートの真偽性や解釈には、慎重なアプローチが必要です。これらの複雑な要素を総合的に分析し、ホリスティックな視点から事態を俯瞰することが不可欠です。今こそ、オープンかつトランスペアレントなダイアログを通じて、サステナブルなソリューションを共創する好機ではないでしょうか。我々のコラボレーションによって、エシカルなビジネスプラクティスと経済的繁栄の両立を実現できるはずです(だが、こちらには確たる証拠がありましてよ。そう、この裏帳簿と水質調査レポートがね。もう言い逃れはできませんわよ)」


 私の提示した資料を見たドール侯爵とクソヤーロの表情が歪む。


「くそっ、ここまでバレてしまってはお終いだ! 殺せ、殺してしまえ!」

「ぐっ、敵襲だ!」


 クソヤーロは後ろに下がりながら、護衛の暗殺者を召喚すると私たちに差し向けてきた。それだけではなく、何故か血迷ったドール侯爵も私たちを敵認定して護衛の騎士たちを差し向けてくる。


「上等ですわ。スケイ、カーク、やっちゃってください!」


 クソヤーロの護衛の暗殺者は熟練ではあったが、『王国の影』の幹部である2人の敵ではなかった。ましてや、侯爵の騎士など論外である。2人は一瞬のうちに暗殺者と騎士を一網打尽にしてしまった。


「そろそろですわね。2人とも、このナイフの鞘に刻まれた家紋、とくとその目に焼き付けなさい!」


 私の言葉に2人の視線が釘付けになった。ドール侯爵は私が誰かは知っているので、あまり意味はないのだが……、ただのついでである。予想通り、クソヤーロは驚愕の表情を浮かべて呆然と立ち尽くしていた。


「ば、バカな。殺戮者だと?!」

「それは父のことですわ。私はフローレス・ローズ。彼の娘でしてよ」


 剣聖の父は困ったことがあると、すぐに斬ろうとするから困ったものである。だから、殺戮者などと言われるのだ。


「お、俺を殺して口封じをするつもりか!」


 何を言っているのだろう。こいつに対して口封じしたいことなど何もないというのに。


「違いましてよ。むしろ出るところに出ていただいて、全てゲロっていただきますわ」

「お嬢様、その言葉遣いは減点でございます」

「……うっさいわね。いい所なんだから、静かにしてて!」


 少し言葉遣いが乱れたことをカークライトに突っ込まれ、軽いコントのようなやり取りになってしまった。しかし、幸いにもクソヤーロの耳には入っていなかったらしく、ひたすらにわなわなとしていた。


「く、お、おのれ! こうなればお前たちも道連れだ!」


 そう言うと、剣を抜いて斬りかかってきた。私はナイフを構えたまま、彼を正面に見据え、すれ違いざまに鞘から抜いて一閃した。


「成☆敗! キュピーン☆」


 そして、クソヤーロの首がスッとドール侯爵の目の前に落ちる。


「ひぃぃぃ!」


 私は彼の前に立つと、全力の微笑みで彼に問いかける。


「あなたもやりますか?」

「い、いいいえええ。め、滅相もない! お、お許しを!」


 そう言って土下座し始めた。私は壊れたラジオのように「お許しを!」と繰り返す彼を見て肩を竦めた。


「やれやれ、これにて一件落着ですわね」

「相変わらず、あの決めゼリフは如何かと思いますが……」

「まったく、細かいわね。良いじゃないの。あとはウーナ丼を食べまくるだけよ!」


 私の言葉に2人はげんなりとした表情になる。


「「まだ、召し上がるおつもりですか?」」

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