第24話 新勇者パーティー
「なんとっ、ロベルトが殺された。だと?」
ロベルトが殺害されたことで勇者不在となった勇者パーティーは王都に戻り、国王に状況を報告していた。
「しかし、にわかには信じられんな。あれほどの快進撃を続けてきたロベルトがあっさり殺されるとは……」
「その事なのですが……」
純粋に驚いている国王に申し訳ないと思いつつ、リリアナは自分が加入してからのことを説明した。
「なんだと?! バカの一つ覚えのように聖剣の力を使いまくっていただと! それでマナポーションを大量に消費して、あろうことかフローレス嬢に自腹を切らせて購入させていただと!」
ロベルトに全幅の信頼を置いていた国王は激昂していた。すぐにでも魔王を倒せそうな勢いで進んでいたのだから。それが聖女に無茶を強いて築き上げた幻だったのだから、彼としてもやるせない気持ちなのだろう。しかし、彼も立派な為政者であった。激昂していたのはほんの一瞬で、すぐに落ち着きを取り戻すとエドガーを呼ぶように伝える。
「父上、何事でございましょうか?」
エドガーが国王の前で跪く。
「エドガーよ。既にロベルトが殺されたことは聞き及んでおるな? ついては、次の勇者として、お前がパーティーを率いるのが習わしである。良いな?」
「……」
「良いな?」
「一つ伺っても?」
「何をだ?」
「なぜ、フローレス嬢を追放したのですか?」
「……」
「父上?」
「……無能だったからだ。そもそもランク1の回復魔法しか使えないというではないか」
「父上、あなたはつくづく無能ですね。何も見えていない。ロベルトの素人剣術で快進撃などと、裏があるだろうことはみんな思ってましたよ。父上と、そこにいるパーティーメンバー以外はね」
「何だと?!」
そう言って、国王は周囲を見回すが、誰一人目を合わせるものがいなかった。そのことで、自分だけがロベルトを色眼鏡で見ていたことを確信した。
「そんな……」
「百歩譲って、敵を倒すだけなら他のメンバーの助力があったと考えられましょう。しかし、そんなロベルトがランク1の回復魔法でも事足りてたとなると話は変わってきます」
「……」
「素人同然の義兄がほとんど無傷でいられた。それも、そのことに誰一人として疑問を抱くことなくです。その意味がお判りになりますか?」
そう言って、エドガーは国王を見据える。その目は実の父親を見ているとは思えないほど冷め切っていた。エドガーは彼を見定めているのである。彼が王たりえる知恵を持ち合わせているかどうかを。
「どうやら、私も父上を買いかぶっていたようですね。答え合わせをしましょうか。義兄のパーティーの快進撃を支えていたのはフローレス嬢ですよ。当然ですよね。誰一人として疑問を抱いていなかったのですから、追放された彼女以外はあり得ないのですよ」
「バカな。まさか、フローレス嬢は誰にも気付かれずに快進撃を演出していたとでも言うのか?」
「ふふふ、そのまさかですよ。そもそも、父上はよくご存じでしょう? 彼女の家のことを」
「ぐっ。それは当然だ、ワシは国王なのだからな!」
エドガーの言葉に、気まずそうな表情をするが、それも一瞬のことであった。すぐに威厳のある表情に戻る。
「彼女は10歳にして、ローズ公爵家の当主の座を引き継いでおります。表も……裏もね」
「……」
「その意味は父上にはわかりますでしょう? それほど有能な『影』だったのですよ。聖女と出たことで王家が強引に勇者パーティーに入れてしまいましたがね」
「そんなことが……。確かに『影』であれば、そのようなことも不可能とは言わぬが……」
「ふははは、だから父上は愚かだというのです。先ほどの私の言葉を聞いておりましたか? 彼女は10歳で父親を下したのですよ。聖女認定を受けた15歳まで5年もあるのです。まさか、5年もの間、実力がそのままだったとは言いませんよね?」
「そ、そうだな……ならば、フローレス嬢を再び……」
「何を仰ると思えば……」
国王の遅すぎる決断に、エドガーは嘲笑の笑みを浮かべながら、大きくかぶりを振った。
「彼女は決して戻りませんよ。私も彼女に戻ってきて欲しいわけではありませんからね。言ったでしょう? 彼女は既に実質的には公爵家当主なのです。一度、我々の都合で引き込んでおいて、こちらの都合で追放し、再び我々の都合で彼女を引き込もうなどと……。父上は手に負えないほどに無能だったのですね」
「お前は何も分かっていないではないか。国を背負ったことのない分際で……」
「ふははは、国を背負う? そんな重責を感じているのであれば、彼女に戻ってきてもらおうなどとは口が裂けても言えませんよ。父上はあなたの代で王国を滅ぼすおつもりですか?」
「何をバカな。小娘一人に何が……」
「実質的に公爵家当主だと言ったでしょう? ですが、表向きは父親が公爵家当主。その意味すらも分からないとは、相当に耄碌されているようだ」
しばらくエドガーの言葉を思案する国王だったが、あることに気付き驚愕の表情を浮かべる。
「ま、まさか、『影』だとでも言うのか?」
「ふふふ、やっと気付いたのですか? まあ、ここまで言って気付かないようでは本当に終わってますからね」
真実に気付いた彼は驚愕を通り越して絶望の表情に変わっていく。
「まさか、追放した復讐として? あるいは、不当に扱ったことか?」
「くははは、本当に器が小さい。それでよく国王などと名乗れたものだ。彼女は『影』だ。ロベルトのポーション代などはした金ですよ。それに……追放は彼女自身が最初から望んでいたことです。なぜか、彼女は妹も聖女であることを知っていたようですがね。私は、見て見ぬふりを続けた父上と違って不当に扱われている彼女に協力を申し出たことがある。と言っても、2年で私の役目は終わるから大丈夫よ、って言って断られましたがね」
「2年? ……まさか!」
「そう、彼女は妹が自分より優秀な聖女であると知っていたのですよ。そして、それによって自分が王家から完全に自由を取り戻すこともね」
「あの、小娘がまさか……」
そして彼の表情は憤怒へと変わる。何かを言うたびに表情をコロコロと変える国王をエドガーは侮蔑した表情で見つめていた。
「おっと、彼女のことを『小娘』というのは止めていただけますか? 無能な父上とは器が違うのですよ。そもそも、彼女にロベルトを殺す理由はありません。彼女みたいに優秀な人間にとっては、父上やロベルトのように愚かな人間が上にいた方が都合がいいのですからね」
「ぐぬぬぬ……」
「ああ、最初の答えが必要でしたね。受けさせていただきますよ。ですが、メンバーは入れ替えますけどね。聖女リリアナは引き続きパーティーで頑張っていただきます。これはフローレス嬢の希望でもあります。そして、行方をくらましたレティの代わりに彼を入れます」
「ウィンド・ミールと申します。しがない盗賊をしております」
エドガーの紹介した男が恭しく礼をすると、場が騒然となった。
「あれって、怪盗ウインドミールじゃないか?」
「あの顔には見覚えが……」
その様子を見てエドガーはニヤリと笑みを浮かべる。
「みなさんもご存じの通り、彼はかつて怪盗として名を馳せた男。腕は確かでございます」
「まさか、そんな悪人を栄誉ある勇者パーティーに入れるつもりなのか?!」
「ええ、実力は問題ないでしょう? それにパーティーの権限は勇者である私のものだ。そして、ゴードンとミラは脱退してくださいね。代わりは後ほど決めます」
騒ぎ立てる周囲の声など意に介さないと言うかのようにエドガー涼しい顔をして微笑んでいた。
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