第19話 瓦解する勇者パーティー
「ふぅ、今日も何とか乗り越えたわね」
聖女リリアナが勇者パーティーに入ってから、毎日が絶体絶命だった。必殺技を無駄撃ちした挙句、ポーションを浪費する勇者。しょぼい魔法しか使えない魔術師。索敵も斥候もろくにできない盗賊。
「こんなメンバーでどうやって快進撃とかやっていたわけ?」
そんな愚痴が出るのも当然だった。彼女が合流して以降、パーティーで討伐したのはオークとかゴブリン、それもシャーマンなどの上位種ではなく通常種である。結果として1回の冒険で得られるお金は10000ゴールドがせいぜいであった。にもかかわらず、1回の冒険で何十本ものマナポーションを消費するのだから毎回赤字であった。
「今は、借金のカタとして全財産差し押さえているけど、このままだと1か月で資金が底をつくわ」
全財産没収していたが結局毎回赤字になってしまい、返済の目処どころか、借りたお金を溶かす勢いだった。
「やはり、お姉様の助言に従うよりほかにないですわね」
勇者へのポーションの支給は制限していたのだが、足りないと文句を言ってきたため、新たな借金としてポーションを支給してきた。その結果膨れ上がった借金のカタとして勇者の聖剣を押収し、代わりに銅の剣を渡した。当然ながら文句を言ってきたが、文句を言うなら回復や強化をしないと脅したら、しぶしぶ従った。
「というか、あんなチキン野郎が勇者だって、何の冗談なのかしらね」
武器を奪ったら、後ろでウジウジするようになったので、鞭を打って前に出させる。しかし、素人以下の動きしかできないため、すぐに怪我をする。そして、ちょっと怪我をしては回復を要求してくる始末であった。
「戦士のゴードンは敵の攻撃を一身に受けて、もっと酷い怪我をしているんですよ、その程度のかすり傷など我慢しなさい」
「ふざけるな。俺は王子だぞ。将来、この王国を背負って立つ人間だぞ。俺が怪我をしたんだから、お前は速やかに治せばいいんだよ」
以前会った時には少々自己中心的な部分はあるものの、他者を引っ張っていくリーダーシップを持つ王に相応しい人間だと思っていたリリアナは、ここ数日の彼の態度を見て、それが幻想だったことを知った。
「私たちは魔王を討伐するために結成された勇者パーティーですよ。その程度の怪我で泣き喚いて治療を要求していては、魔王相手に戦えません」
「いいんだよ。俺は聖剣の必殺技を使って止めを刺すのが役目なんだからな。それをお膳立てするのがお前らの役割なんだよ」
「止めを刺すと言っても、あなたの必殺技、10回に1回くらいしかまともに当たらないではありませんか。鍛錬が足りませんよ」
「うるさい。当たるまで撃てば倒せるんだから問題ないだろうが。俺がいなければ魔王を倒せないんだから文句を言うな。それに有能な俺には鍛錬など必要ない」
彼を説得するのも1度や2度ではなかった。しかし、彼は王子としての立場や魔王に止めを刺すことのできる聖剣の使い手であることを理由に聞く耳を持たなかった。それどころか自らを有能などと勘違いしていて、鍛錬など必要ないとまで言う始末であった。何よりも、パーティーメンバーであるゴードンやミラ、レティなどを侮辱することも多く、時には優秀な聖女であるリリアナすらも罵倒することもあった。
「私、パーティーを抜けさせていただきます」
そんな中、リリアナにとって最も危惧していた自体が発生する。盗賊であるレティがパーティーからの脱退宣言をしたのである。
「レティ、もう少し耐えて。お願い」
「ふん、勇者パーティーから抜けたら、お前を使ってくれるヤツなど誰もいないぞ?」
何とか慰留しようとするリリアナの努力を嘲笑うかのように、ロベルトは脅迫紛いの言葉をもってレティを追い詰めた。結局、レティはパーティーを抜けることになった。その日の夜、レティはリリアナと秘密裏に話をした。
「実は、私。ルイス殿下にスカウトされたのよね」
彼女の言葉にリリアナは耳を疑った。勇者パーティーは王国が認めた精鋭という建前である。それを王国の王子が引き抜きをするなどあってはならないことだった。
「ホントは言うかどうか迷ったんだけど。リリアナには世話になったし、ロベルトの横暴な行為から私たちを庇ってくれたからね。アイツさえいなければ、考え直したかもしれないんだけど……。やっぱり、もう限界だったみたい」
「レティ……」
リリアナも彼女の気持ちは痛いほどよく分かっていた。ゴードンもミラも、きっかけさえあれば、すぐにでも離脱するだろう。ただ、勇者パーティーを離脱すると、その後で誰も雇ってくれなくなると言われているため渋々残っているに過ぎなかった。
「やっぱり、お姉様のアドバイスに従って、殺すしかないのかもしれない」
レティと別れてベッドに入ったリリアナは独り決意を固めていた。リリアナは自分が聖女に相応しいとは思っていない。何よりフローレスを追い出した原因を作ったのは自分だし、それで彼女を見返したと喜んでいたくらいだ。自分は世界に愛されているといった勘違いも、ここ数日のことで無くなってしまった。
「よし、明日、ロベルトを殺そう。魔物の群れの中に放り込んで、回復を遅らせる。それでアイツは死ぬ」
人を殺したことない聖女である自分が人を殺す決意をする。そこに葛藤が無いわけではないが、これ以上、残った2人が苦しむのを見過ごすことはできなかった。
そう決意を決めた翌日、リリアナはロベルトを殺すという決意が無駄だったことを知ることになった。
「し、死んでる……?」
「何で?」
「さあね。あちこちで恨みでも買っていたんでしょう」
翌日、リリアナは2人と食事を終えて、それでもまだ起きてこないロベルトを叩き起こしに行った。しかし、彼の部屋で3人が見たのは冷たくなったロベルトの死体だった。頭と胴が切り離された死体。それは明らかに他殺だった。
「とりあえず、勇者がいなくてはどうしようもありません。王都に戻りましょう」
「お、おう」
「仕方ないわね」
こうして3人は急いで王都へと戻ったのだった。
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