第14話 港町へ

 私たちは当初の目的地であった港町であるユーロポートの入口に到着した。本来なら2日もあればたどり着ける場所なのだが、気づいたら出発してから1週間以上経過していた。


「事件が多すぎるわ」


 私が聖女に選ばれて、なし崩し的に魔王を討伐しに行くことになって2年。その間は『王国の影』は機能不全となり、悪い奴らが王国中にはびこってしまった。


「騎士団は何をやっていたのかしら?」

「お嬢様が『王国の影』となってから、騎士団が全部仕事を影に丸投げし続けた結果、騎士団は形骸化してしまいましたね」


 確かに『王国の影』は私にマスターを引き継いでから、優秀な組織になった。だがしかし、自分たちより仕事をちゃんとするからと言って、丸投げをするのは良くないだろう。


「騎士団よ、仕事しろ!」


 私は王国に貸しを作ったら、騎士団を全員クビにする決意をした。


「しかし、検問の待ち時間が長いわね」

「仕方ありませんよ。人の出入りが多いですからね。特にアクドーイ伯爵が割のいい仕事を斡旋してくれるということで、周辺の街や村から人が殺到していますから」


 これはもう私を待たせた罪で成敗してしまってもいいんじゃないか、などと考えていると、お父様の部下が手紙を持ってきた。


「あら、リリアナからの手紙ですわね。なになに……うっわ、勇者パーティーの愚痴のオンパレードだわ」


 どうやら勇者パーティーは私が搾取されていた時の感覚が抜けきっていないようだった。リリアナが入れば少しは自粛すると期待したのだが……。完全に想定外だった。


「まずは……。ずっと赤字ですって? 当然なんだけど。でも、リリアナが追い詰められすぎるのも困るわね。2年も耐えたんだから、もう戻りたくないわ……。よし、お金がどうしても足りなくなったら、ロベルトの聖剣と聖鎧を売り払いなさい、っと」


 アイツは中身がポンコツなのに装備が最強なお陰で、装備の力を自分の力と誤解しているので、現実を見せつける必要があると考えていた。私が売ると面倒なことになりそうだが、リリアナならやってくれるだろう。


「ロベルトが弱くて足を引っ張ってますって? 当然なんだけど。いつからヤツが強いと錯覚していた?! これは……。よし、『ひのきのぼう』と『ぬののふく』を着せて、敵の集団に放り込みなさい、っと」


 行き詰まったら、初心に返るのは基本ですよね。


「ロベルトの金遣いが荒くて困ってますって? 当然なんだけど。そうね……。よし、借金返し終わるまでリリアナがお金を全て受け取るようにしなさい。他のメンバーは個別にリリアナから借りたという形にすること、っと」


 どうせお父様に借金しているだろうし、それを盾にリリアナがいったん装取りしても文句は言われまい。

 そこまで書いて、私は追加で2つほどアドバイスを書くことにした。


「もし、どうしてもお金が回らなくなったら、ゴールドポットに向かって、そこでロベルトを売却しなさい、っと」


 あそこには闘技場があるし、実力を上げるにもちょうどいい場所だろう。


「もし、どうしようもなくなったら、ロベルトを殉職させると良いわ。第一王子が死んだら、代わりに第二王子、それも死んだら、代わりに第三王子が勇者になるから、好きな相手にチェンジすると良いわ。私のお勧めは第三王子のルイスね。素直ないい子よ、っと」


 最終手段はチェンジしかないだろう。「チェンジ」と言ってもチェンジできないので、不慮の事故で死んでもらうしかないのは面倒だが。第二王子のエドガーですらロベルトよりもだいぶマシである。

 私の時はリリアナが第一印象だけは良いロベルトに憧れていたのもあって耐えていたが、もし彼女がエドガーやルイスが良いと言っていたら、ロベルトはどこかで死んでいたかもしれない。


「いや、エドガーやルイスはしっかりしているから、国王が私を追放しろと言っても拒否した可能性が高いわね」


 やはりロベルトを生かしておいたのは正解だったようだ。私はリリアナがロベルトに熱を上げていたことに感謝をしながら手紙に封をして部下に預けた。


 そんなことをしていたら、ちょうど検問の順番がやってきたようだ。


「お前たち、街に入る目的を答えよ」

「観光です」

「は?」

「観光です」

「仕事とか取引じゃないのか?」

「いえ、観光です。余暇です。遊びです」


 遊びじゃダメなのか、と苛立ちながら答えると、検問の担当の人が私をなだめながら事情を説明してくれた。


「まあまあ、待ってくれ。実は仕事とか取引以外の場合は入市税がかかるんだ。だから目的を確認しているのだが……」

「払いますわ。おいくらですか?」

「一人あたり1000ゴールドだ」

「あら、意外と良心的ですわね」

「当たり前だ! 俺たちを何だと思ってるんだ!」

「あら、失礼しました。では3人で3000ゴールドですわね」


 私は微笑むと、担当に3000ゴールドを手渡した。


「よし、入っていいぞ。ちなみに、入りなおすときには、またお金がかかるから注意しろよ」

「ご忠告どうも」


 私は微笑みながら担当に会釈をして、街の中へ入っていく。


「よし、さっそく街に着いたんだし、まずは腹ごしらえね」


 私はさっそく露店の出ている中央通りを目指し――


「まずは宿の確保を。お嬢様、行きますよ」

「ええええ、分かった。それじゃあ、スケイ、カーク頼んだわ。私は先に食事をして待ってるわ」

「……はぁ、わかりました。あまり大量に肉串を食べないでくださいよ。目を付けられると面倒ですから」

「ふふふ、愚問ってやつね。私はそんなバカな真似はしないわよ」

「……まあいいでしょう。それじゃあ、1時間後にあそこの噴水でお願いしますね」


 そう言って2人は去っていった。2人を見送った私はさっそく腹ごしらえのために屋台へと駆けこんだ。


「おっちゃん! イカ串10本ください!」

「お、嬢ちゃん。あいよ、10本で400ゴールドだ」


 私はおっちゃんにお金を渡してイカ串を受け取る。イカ串は巨大なイカの足を一口サイズに切り分けて串で刺して焼いたもので、味付けは塩コショウをベースにして、ショウガ醤油のタレで焼き上げていた。


「んぅぅぅ、うんまい! やっぱ、海に来たらイカ串よね!」


 スカイゲートでは肉串を食べていたが、それは山の中で新鮮なイカが手に入らないためだ。私はどちらかと言えばイカ串の方が好みであった。


「お嬢ちゃん、いい食べっぷりだね。でも1人かい?」

「ん? そうだけど」

「最近、年頃の娘さんが行方不明になる事件が相次いでいるから、お嬢ちゃんも気を付けなよ」

「うん、ありがとう」


 そう言って、イカ串を食べながら屋台を後にした。


「つけられてるわね……」


 屋台から少し離れたあたりで背後から視線を感じたので、少し揺さぶりをかけてみたところ、男たちの動きが完全に私の動きとリンクしていた。


「スケイとカークを待っている余裕は無さそうね」


 私は待ち合わせ場所の噴水に向かい、特殊な粉をばらまきながら裏路地へと入っていった。そして隅の方に追跡用の小型魔道具を放り投げた。

 その直後、私は背後から男に羽交い絞めにされた。


「おっと静かにしな!」

「大人しくしていれば危害は加えないぜ」


 そして、もう一人の男が私の前に回ると口の中に錠剤を押し込んだ。


「きゃっ、な、何を――」


 そして、私は全身から力を抜いた。


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