第13話 勇者パーティーの苦難

「おい、何やってんだ!」


 勇者の怒号が洞窟に響き渡る。聖女リリアナを加えた勇者パーティーは肩慣らしのために、ゴブリン掃討の依頼を受けてヨークレイの近くの洞窟にやってきていた。

 ゴブリン程度なら余裕だと思っていたメンバーも予想外の苦戦に戸惑いを隠せなかった。


「いつもなら、これくらい一撃なんだが……調子悪いみたいだ」


 パーティーの前衛を務める戦士のゴードン・レイクはいつもとは違って弱気に呟いていた。普段一撃で倒してしまうため、滅多に攻撃を受けることがない彼も、今日は何度も攻撃を受けて全身が傷だらけになっていた。


特大治癒スぺリアル・ヒール!」


 リリアナは近寄ってゴードンに回復魔法をかける。すると、彼の身体の傷がみるみる塞がっていった。


「すまねえ」

「いえ、これが私の務めですから」


 そうは言うものの、リリアナの表情からは明らかな疲労感が見えていた。


「ゴードンは攻撃を一身に受け止めているから問題ない。だが、ミラ、レティ。お前らはきっちりと敵を倒せ!」

「そんなこと言っても、いつも以上に強力な魔法を使ってますわ」

「私だって、ちゃんと急所を狙って攻撃してるよ」

「じゃあ何だって言うんだ? 実際に敵を全然倒せていないじゃないか!」

「それを言うなら、ロベルトはどうなのさ。さっきから【聖光轟破斬】使っても効いてないじゃない」

「そうですわ。あれでは【聖光轟破斬(笑)】じゃありませんか」

「うるさい! 俺は勇者だからいいんだよ!」


 顔を真っ赤にしてイキリ散らすロベルトに全員が呆れた表情をしていたが、ロベルトがそのことに気付くことはなかった。


「まあいい、掃討まではできていないが、それでもだいぶ倒したはずだ。今日は一旦戻って立て直すぞ!」

「そうね。もうポーションも残り少ないし……」


 勇者パーティーは街に帰り、ゴブリン討伐報酬で1人当たり5万ゴールドを手に入れた。普段の半分ではあるが、パーティーの共有財産に3万ゴールド入れたとしても、2万ゴールド余る計算であった。贅沢はできないが十分だろうと思いながら、まずはポーションの補給のために錬金術師の店を訪ねた。


「ヒールポーションを100個とマナポーションを300個、貰おうか」

「ヒールポーションが1個100ゴールドで1万ゴールド、マナポーションが1個1000ゴールドで30万ゴールド。合計で31万ゴールドだ」


 店主の提示した金額を聞いて、ロベルトは憤った。


「そんなバカな! いつもは15万ゴールドでも足りてるんだぞ。ぼったくりだ!」

「そんなわけないだろう。他の店も価格はほとんど変わらん。半額などありえんよ」

「だが、フローレスの奴は15万ゴールドで買ってきてたぞ!」

「嬢ちゃんとは専属契約するということで、1割引きにはしてあげたが、それ以上は引いていないぞ。何かの間違いじゃないのか?」

「そんな訳があるか! ちゃんと15万ゴールドで売りやがれ!」

「おっと、乱暴するつもりなら衛兵を呼ぶよ。どうするんだね」

「わかった、半分でいい」

「それじゃあ、嬢ちゃんの顔を立てて、ヒールポーション50個、マナポーション150個で14万ゴールドでいいぞ」

「ええ!? ポーション半分ってどういうこと? それじゃあ全力で戦えないじゃないの!」

「うるさい! それ以上必要なら自腹で買え!」


 険悪な雰囲気のまま店を出た勇者パーティーだったが、そこでゴードンとレティが文句を言ってきた。


「おい、残り1万ゴールドでどうするんだよ。武器や防具のメンテナンスだってあるんだぞ!」

「うるさい! そんなのは自腹だ!」

「おい、自分だけが聖剣でメンテナンスいらないからって、それは無いだろう!」

「そうだ! それならマナポーションもちゃんと等分しろ! 私たちはそれを売ってメンテナンス代にあてる!」

「自分勝手なことを言うな! これはパーティー全員の消耗品だろ!」

「どっちが自分勝手だよ! パーティー全員のだったら、俺たちだって受け取る権利はあるはずだぞ!」

「やめてください!」


 リリアナが一触即発となっていたパーティー内の雰囲気に待ったをかける。


「私が、お父様やお母様。公爵家に資金の融資をお願いします。それで一旦は落ち着いてくださいませんか?」

「いいだろう。だが次に俺たちをないがしろにするようなら考えさせてもらうからな!」

「ふん、肉ダルマのくせに生意気な!」

「何だと!」

「やめて! これ以上続けるようなら、お父様への融資のお願いもしませんからね!」


 リリアナの必死の懇願と脅迫に二人が折れる。リリアナはすぐに父親に手紙を送って融資の相談をした。お金は父親の部下が持ってきてくれたが、融資の条件としてリリアナの顔を立てて利息は取らないが、念のため王家を連帯保証人にして欲しいということだった。それをロベルトに相談したところ、快く引き受けてくれた。

 こうして、300万ゴールドの融資を受けた勇者パーティーは気分を一新するために宴を開いたのだった。


 翌日、リリアナは財布の中を見てため息をついた。


「昨日融資されたお金、既に2割が溶けてしまいましたわ……」


 昨晩の再決起集会のような宴はいつも以上に酒や食事を出していたため、1晩で60万ゴールドもの費用が掛かってしまったのだった。昨日確認した限り、今の戦力では1日に30万ゴールド、1人あたり6万ゴールドが限界だと考えると、明らかに使いすぎである。


「これまでずっと快進撃を続けていたと聞いていたのですが……。本当でしょうか……?」


 昨日、ゴブリン相手に苦戦していた様子を見る限り、快進撃するほどの実力は無いと思われた。それでもまだ、ゴードンとミラとレティに関してはマシであった。優秀とは言い難いが実力は平均以上なので経験を積んでいけば一線級に到達することも不可能ではなかった。


「問題はロベルト……。彼の必殺技【聖光轟破斬】が問題だわ」


 彼の必殺技は極めて威力が高く、きちんと当てれば敵を1撃で葬ることも可能である。だが、彼の必殺技は50%はかすりもせず、残りの40%はきちんと当たらない。


「結局、倒せるのは10回撃って1回ってところなのよね……」


 必殺技は強力な分、消費も大きい。10発も撃てば彼の魔力はすっからかんとなるので、彼は戦闘中は常にマナポーションをがぶ飲みしていた。


「そもそも、必殺技ってここぞって時に使うものじゃないの?! なんでバカの一つ覚えみたいに必殺技撃ちまくってんのよ!」


 彼女は机をバンバンと叩きながら文句を言った。そのお陰で少し落ち着いたので、椅子に座って腕を組んだ。


「いや、こんなパーティーでもフローレス姉様はやりくりしてきたのよ。私にできないはずはないわ。ここは姉様に秘訣を聞いてみるしかないわね」


 リリアナは手紙を書いて、フローレスに届けてもらうように父の部下に託した。


「姉様、頼みます。私を助けてください」


 ロベルトの婚約者の地位と勇者パーティーの聖女としての地位を図らずもフローレスから奪ってしまったリリアナだったが、彼女には姉がきちんと返事をくれるという確信があった。何故なら、彼女は世界に愛されるリリアナ・ローズなのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る