第12話 ケダモノたちに贈る最期の晩餐です
押さえられた村長は、あからさまに動揺していた。
「な、何をするんだ。やめろ!」
「いやいや、ちょっと、行き過ぎちゃうだけですよ」
そう言って、私は近くに落ちていた腕くらいの太さの杭を手に取ると、村長の尻に思いっきり突き立てた。
「アーーーッ」
その言葉を残して村長の身体から力が抜けていく。
「やっぱりジジイじゃダメだわ。まったく萌え要素が無いわ」
意識を失った村長を放置して、私は村人の前でオスカーの懐を漁り、白い粉の入った袋を取り出した。
「そ、それは……」
「ご想像の通り、村人を気狂いにした元凶よ。こいつらが、気狂いにして彼らを廃人になるまで追い込んだのよ」
村人たちは、そのことに驚いているようだったが、ほとんどの人にとっては他人事のようであった。
「自分は関係ない、と思っているかもしれないけど、あなた達の妻や愛娘がこいつらの餌食になる可能性もゼロじゃないのよ。その辺をよぉぉく考えなさい」
さすがの村人たちも他人事ではないと感じ取ったのか、彼らに向ける視線が一気に厳しいものとなった。
「でも、彼らはただの操り人形よ。ホントの黒幕は村長よ。そもそも、こいつが色々と根回しをしたお陰で好き勝手やってきたのだから、当然よね」
「まさか村長が……。いったいなぜ……」
「お金でしょうね。出稼ぎで稼いできたお金を薬を売るだけでピンハネできるのですから。それに男手がいなくなれば村じゃ立ち行かなくなる。そうすれば保護するという名目で自分のものにもできますからね」
「しかし、働くものがいなくなってしまっては……」
「薬で稼いだお金で奴隷を雇えば問題ないわ。それに3バカが作った子供も奴隷にするつもりだったのでしょうけどね。言っておきますが、男手が1人でないことは大丈夫な理由にはなりませんよ。今までのターゲットが男手が1人だけの家だったというだけです」
やはりと言うか、どこか自分は大丈夫みたいな顔をしていた村人たちも、顔が青ざめていった。
「やることは薬で廃人にするだけですからね。1人やるのも2人やるのもさほど変わりはありませんよ」
「くそっ、村長め! 俺たちには仕方なかったというようなことを言っていながら……」
当事者と認識した瞬間に村長に怒りを向け始めた村人を見て、私はため息をついて肩をすくめた。
「被害者面しているところ申し訳ありませんが、あなた方も十分加害者ですからね」
そう言って、デールと被害者の母娘を登場させる。
「こちらは今回の被害者です。ちなみにデールさんは……、こちらの母娘を守ろうとしてオスカーに抵抗したんですよ。それを乱暴者と言うレッテルを張って身動きできないようにした。その結果、この娘さんはオスカーたちに襲われたのです。あなた方がデールさんを不当に扱わなければ、彼女は無事だったでしょう。そういう意味では、あなた方は十分に加害者なんです」
「そんなバカな話があるか! 俺たちは騙されていたんだぞ」
「ふふふ、騙されていたも何も、実際に被害を受けた人がいるんです。それだけで彼女たちには、あなた方を罰する権利があるんですよ」
村人たちは、被害者たちから睨まれて顔を真っ青にしていた。
「まあ、でも、まずは村長と3バカの処分ですね。今回は私が任されておりますので、『最期の晩餐』という処刑方法を取らせていただきます」
そう言うと、スケイレアとカークライトが巨大な檻を持ってきて、4人を中に入れる。そして、器に入ったグチャグチャなご飯を中に置いておいた。
「この処刑方法はいたってシンプルです。彼らは檻の中にずっといてもらいます。食事は……そこにある犬のゴハンです。中には毒が入っていて、食べたら死にます。なので最期の晩餐というのです」
私はケダモノのような彼らに相応しい、この処刑方法を採用したのだが……。なぜか村人だけでなく、被害者の人からも恐ろしいものを見るような目で見られた。解せぬ……。
私は執行人の責任として、彼らを見守っていた。1日目はうるさいぐらいに泣きわめいていた彼らだったが、2日目にして村長が早くも死んでいた。どうやらエサに手を付けたようだ。その日は恐怖から3人は大人しかったが、3日目には3人とも死んでいた。エサには手に付けていなかったが、村長の身体が食い荒らされていたところを見ると、共食いをしてしまたようだ。
「エサじゃなければ大丈夫だと思ったんでしょうけど、エサを食べた死体も毒になるんですよね」
前々世にも、例の黒いアレをまとめて撃退するための毒エサにそう言ったものがあったが、ちょうどそんな感じだ。
私は被害者の方々を呼んで処刑が終わったことを報告した後で、死体をゴミ捨て場に捨てることにした。あれだけケダモノだと言っていた被害者の人だったが、信じられないような目で見られた。解せぬ……。
「いいんですか? 殺してしまって」
カークライトが心配した様子で訊いてきた。
「大丈夫よ。3バカが捕まったあたりでヤツらは手を引いたみたいだったからね。それに……。こんな小さな村の村長に大事なことを話すとは思えないからね」
「たしかに……。やはり、アクドーイ伯爵の手の者でしたか」
「おそらくはね。まあ、この村もしばらくは落ち着くでしょうし。まあでも、最後に一仕事しましょうか」
そう言って、私はデールの家へと行くと、予想通り彼が庇った母娘がやってきていた。
「デールさん。私のことを大事に思ってくれているのはありがたいのですが……。ご存じの通り、私の身体はオスカーに汚されてしまいました」
「そんなこと言わないでくれ。俺は君が無事だっただけでいいんだ」
そう言って娘の肩をデールが掴む。
「でも……。私はあなたの期待には応えられませんでした。あなたに顔向けできない私は、明日この村を出ていきます」
「そんな! 待ってくれ!」
デールは必死に懇願したが、彼女の意思は固いらしく、顔を背けたまま肩を震わせていた。
「はいはい、そんなに頑なにならずに。少しは彼の顔を立ててあげたらいかがですか?」
「えっ? フローレス様?」
「彼は、全てを知った上でもあなたを守りたいと思っているのですよ。むしろ、あなたを守り切れなかったことを悔やんでいる。今回は私が処刑しましたが、私がやっていなければ、彼がやっていたでしょう」
「知っていたのか?」
「もちろんです。ですが、もしそうなったら、4人だけでなく村長に付いた村人も亡くなっていたでしょうね」
私の言葉を聞いてデールが俯く。私が先ほど言った通り、4人以外の村人も加害者だと考えていて、一緒に殺すつもりだったようだ。
「もし、あなたが彼に負い目があるのであれば、彼と一緒になって支えてあげるのが唯一の罪滅ぼしですわ。何せ、彼はあなたのために村の人たちのほとんどを殺すつもりだったのですから」
「フローレス様……。ありがとうございます。決めました、私はデールさんと共に歩んでいきます」
「アンネ……。ありがとう……」
そう言って、2人は抱き合った。私は彼らの邪魔をしないようにこっそりと家から出た。
「まさかお嬢様に男女の機微が分かるなんてね」
「失礼な言い方ですわね。それくらい分かりますわよ!」
スケイリアは呆れた表情でため息をついた。
「さあ、早くいきますわよ。明日はユーロポートですからね!」
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